差額ベッド代とは|費用を抑える方法と払わなくて良いケースを徹底解説

2023年7月10日

差額ベッド代は患者が個室を希望した場合などに発生します。そのため、病院都合で差額ベッド代のかかる部屋に入院することになっても費用は請求できません。ここでは、払わなくて良いケース・差額ベッド代を取り戻す方法・トラブル相談先などお伝えしていきます。

差額ベッド代(さがくべっどだい)とは、正式名称を「特別療養環境室料」と呼び、入院時に希望し以下の条件をすべて満たす個室(特別室)に入院する場合にかかる費用のことを言います。

① 特別の療養環境に係る一の病室の病床数は4床以下であること。
② 病室の面積は1人当たり6.4平方メートル以上であること。
③ 病床ごとのプライバシーの確保を図るための設備を備えていること。
④ 少なくとも下記の設備を有すること。
ア 個人用の私物の収納設備
イ 個人用の照明
ウ 小机等及び椅子

(引用:特別の療養環境の提供に係る基準に関する事項|厚生労働省)

そして、何より気を付けてほしいことが、差額ベッド代は公的医療保険(健康保険)の適用外になってしまうことです。公的医療保険と言えば、現役世代なら医療費の自己負担額が3割になることはご存じだと思います。しかし、差額ベッド代は公的医療保険が使えず、全額自己負担になるのです。

そのため、決して安くはない入院費用の中でも、大きなウェイトを占めてしまい、「緊急で入院してみたら後々、差額ベッド代を請求されてしまった」というトラブルも聞きます。

ここでは、差額ベッド代の平均費用やトラブルを防ぐ方法をまとめました。入院の際は、この記事を参考に、少しでもトラブルを回避できれば幸いです。

差額ベッド代の費用と平均額

気になる差額ベッド代の費用ですが、厚生労働省の中央社会保険医療協議会から、以下のようなデータが出ています。

病室ごとの差額ベッド代(1日あたり)

1人部屋 8,018円
2人部屋 3,044円
3人部屋 2,812円
4人部屋 2,562円
平均 6,354

(令和元年7月1日現在)

参考:「中央社会保険医療協議会―厚生労働省

お察しの通り、1人部屋の費用が最も高いです。1人部屋から4人部屋までの平均額は1日あたり6,354円になります。平均入院日数は後述しますが、仮に1ヶ月(30日)個室で入院していたとすると、190,620円が差額ベッド代としてかかります。しかも、それが全額自己負担です。

差額ベッド代が発生する条件

差額ベッド代が発生するには、細かい条件がありますので、まずはそちらを解説しましょう。

患者自らが希望した場合

患者自ら個室(特別室)を希望した際に差額ベッド代が発生します。厚生労働省は差額ベッドの請求条件として「患者の自由な選択と同意」が必要であると定めているため、患者本人が選択・同意していない場合は、たとえ個室に入院することになっても費用を請求することができないのです。

同意書にサインをした時

医師からの説明を受け、納得した上で同意書にサインをしたケースです。

「差額ベッド代を払いたくないならサインしなければいいだけ」と、思うかもしれませんが、入院時は様々な書類に目を通す必要があり、その中に紛れ込んでいる差額ベッド代請求の同意書を見逃してしまい、後々トラブルになってしまうようなケースも少なくありません。

では、一体差額ベッド代はいくらになるのかを確認していきましょう。

平均入院期間

上記でお伝えした差額ベッド代は、1日あたりの金額です。【1日あたりの差額ベッド代×入院日数】によって、入院期間の差額ベッド代の合計額を算出できます。

傷病別の平均入院期間

傷病名 平均入院期間(日)
全体 32.3
結核 59.5
ウイルス性肝炎 13.8
胃がん 22.3
結腸・直腸がん 16.4
肝・胆管がん 20.8
気管支・肺がん 21.1
糖尿病 30.6
血管性及び詳細不明の認知症 312.0
統合失調症等 570.6
気分障害 137.4
アルツハイマー病 273.0
高血圧性疾患 47.6
心疾患 24.6
脳血管疾患 77.4
肝疾患 23.4
骨折 38.5

参考:「厚生労働省|令和2年患者調査の概況

入院日数は年齢が上がるに連れて長くなる傾向にありますが、全体的な平均入院日数は32.3日です。例えば、上記の差額ベッド代の1日平均6,354円に平均入院期間の32.3日をかけると、【約205,234円が1回の入院でかかる差額ベッド代の平均】だと言えます。

繰り返しますが、この差額ベッド代は公的医療保険の適応外なので全額負担です。それに加え、治療費や食事代などがかかってきます。そういった医療に関わる費用を公的医療保険だけでは賄えない場合に、民間の医療保険に加入する必要性が見えてくるでしょう。

差額ベッド代を支払わなくても良いケース

書面での同意がされていない場合

上記でお伝えしたように、書面で患者やご家族からの同意が取れていなければ差額ベッド代は請求することができません。何よりこの同意書にサインしないことが大前提です。

治療上の都合で特別室に入院する場合

症状や治療の内容によっては、特別室に入院せざるをえないと医師が判断する場合がありますが、その場合は患者に差額ベッド代を請求することはできません。しかし、同意書にサインしてしまったのであれば、請求を覆すことは難しいでしょう。

病院側の都合で特別室に入院する場合

感染予防や病室の不足など、病院側の都合にも同じように患者に差額ベッド代を請求することはできません。

差額ベッド代の請求によるトラブル

差額ベッド代を全く知らずに後から請求

本来、入院時に病院側は差額ベッド代について詳しく説明した上で同意書にサインもらうべきなのです。しかし、説明が不十分で後から請求された時にトラブルになってしまうことが非常に多いです。

同意書にサインしないと入院できない

同意書にサインしないと差額ベッド代は請求されないとお伝えしましたが、同意書のサインを拒否したことで「病室が空いていない」などと、入院を断られるトラブルも少なからずあります。緊急時や近くに病院がない方は、泣く泣く同意書にサインしてしまう事態に陥っています。

病院側の都合なら差額ベッド代はかからない

自ら個室を希望した場合は当然ベッド代が発生しますが、病院側の都合で大人数の部屋が空いていない場合、どうしても個室を使わなくてはいけないケースがあります。この場合は、自分で選択したわけではないので、差額ベッド代は請求されません。

もし自分で個室を希望したわけではないのに差額ベッド代を請求されていたら、きちんと払い戻しを請求しましょう。

差額ベッド代を取り戻す方法

差額ベッド代の負担を軽くするには、事前に民間の医療保険に加入しておくのがベストです。たた、差額ベッド代についてよく知らず、入院後に高額な医療費を請求されるトラブルに巻き込まれた人のために対処法を紹介します。

医療機関に返還請求をする

厚生労働省の通知によると、医療機関が差額ベッド代を請求できないのは以下の3パターンです。

① 同意書による同意の確認を行っていない場合(当該同意書が、室料の記載がない、患者
側の署名がない等内容が不十分である場合を含む。)
② 患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
(中略)
③ 病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選
択によらない場合

引用:厚生労働省|「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について

患者が同意した上で同意書にサインしてしまうと基本的に返還請求は難しいですが、

  • 1.治療上の都合でやむなく個室を利用した場合
  • 2.空きベッドがないからやむなく個室を利用した場合

上記の場合は、同意を求められること自体がおかしいことなので、差額ベッド代が返還される可能性はあります。

あくまで自分が望んだのではなく、病院側の都合で仕方なく個室を利用したというスタンスを貫くことが大切です。とはいえ、一度払ってしまった医療費を素直に返還してくれる病院ばかりではないので、場合によっては訴訟しないと応じてもらえないこともあるでしょう。

確定申告で医療費として申告する

医療費として控除を受けることで節税になります。全額が返ってくるわけでないので、医療機関から返還されない場合に考えたい手段です。ただし、自己都合で個室を利用した場合は控除の対象外です。あくまで対象は治療上の都合などやむをえない事情で利用した方になります。

差額ベッド代請求でのトラブルを未然に防ぐ方法

このようにトラブルにもなりかねない差額ベッド代ですが、患者やご家族が事前に注意をしておくことでトラブルを防げます。

同意書の存在と費用を確認

度々伝えていますが、入院時には個室利用の同意書と、差額ベッド代の金額を確認しましょう。入院時は何かとバタバタしてしまいますが、よく分からない同意書にはサインしないようにしましょう。

また、差額ベッド代はそれなりの費用がかかるものの、費用の幅は病院によってピンからキリです。「差額ベッド代は絶対に払わない!」と真向から拒絶するのではなく、差額ベッド代について病院に詳しく確認すると、意外と安く入院できる病院もあることに気付くでしょう。

同意書にサインをしないか希望を書いておく

上記のトラブルでもお伝えしましたが、同意書にサインをしなかったことで入院が拒まれるケースもあります。ある程度は妥協して「費用の安い部屋なら可能」「もう少し費用がかからないなら可能」と病院と交渉することで、病院と入院患者の意見をなるべく近づけて入院できる場合もあります。

緊急の場合など、どうしても入院したいけど費用が心配な方は、同意書のサインを拒むのではなく、同意書の横に「大部屋希望」などと希望を残しておくことで、1人部屋での高額な差額ベッド代の請求を回避できることもあります。

差額ベッド代でトラブルになった際の相談先

一方で、既に「知らないうちに差額ベッド代を請求されていた」「差額ベッド代が払えないと伝えたら入院を拒まれた」などと、病院とトラブルになってしまったのであれば、然るべき機関に相談するようにしましょう。

差額ベッド代でトラブルになってしまった際の相談先は以下のものがあります。

地方厚生局

医療制度などに関する内容は、厚生労働省の管轄になりますので、厚生労働省が運営する地方厚生局が相談を受け付けてくれます。以下から各都道府県の厚生局に相談してみましょう。

地方厚生局-厚生労働省

ささえあい医療人権センター

NPO法人のCOML(コムル)は、医療に関わる相談を電話で受け付けています(メール・手紙・FAXも可能)。相談スタッフは医療者ではありませんが医療に特化していますので、最初の相談先として適しています。

さえあい医療人権センター 電話相談

差額ベッド代に対応した保険商品とその必要性

差額ベッド代は費用がそこそこ高く、公的医療保険も適用されません。そこで、頼りになるのが民間の保険会社が販売している医療保険です。差額ベッド代を始め、医療費に不安のある方は、医療保険の加入を考えていいかもしれません。以下では医療保険の必要性についてご説明します。

差額ベッド代を保障したいのであれば入院保障付きの医療保険

差額ベッド代は入院日数に比例して高額になってきますので、入院保障付きの医療保険に加入するのがおすすめです。多くの医療保険は入院保障が付いており、入院日額5,000円や10,000円に設定されています。支給額は入院日数に応じて決められるため、入院日数が長くなっても安心です。

医療保険の必要性

加入しておけば心強い医療保険ですが、ひとつ注意点があります。医療保険の多くは掛け捨てタイプの定期保険です。簡単にお伝えすると、契約期間内に病気・ケガなどで入院しなければ、保険金が払われず、保険料を払い込んだだけになってしまいます。

加入しておけば差額ベッド代などは安心ですが、そもそも入院しなければ損にもなりかねませんので、医療保険に加入するかどうかは、慎重に判断しましょう。保険のプロFP(ファイナンシャルプランナー)に相談してみるのもおすすめです。

まとめ

入院時は個室や少人数部屋を利用したい人も多いと思います。差額ベッド代は入院すれば必ず発生するわけではないので、差額ベッド代でトラブルにならないように、入院の際にしっかり確認してください。

また、民間の医療保険で差額ベッド代をカバーすることもできます。しかし、不安だからと言って無駄な保険に加入しすぎると、今度は保険料が財布を圧迫してしまいます。医療保険への加入をお考えの方は一度FP(ファイナンシャルプランナー)などの保険のプロに相談することがおすすめです。

※2022年11月時点の情報です

監修:ファイナンシャルプランニング技能士 垣内結以