生命保険に加入していると生活保護を受けられない?解約せずに済む条件とは
2022年5月24日
日本社会において、最後のセーフティネットである生活保護。働きたくても身体を壊してしまって働けない、障害があるため働けないなど、生活を維持するだけの収入が困難な方に向けられた制度です。
さて、生活保護申請をする時に気になるのが生命保険です。例えば「病気が原因で働けなくなり生活保護を申請することになったが、いずれは復帰するつもりだ」という場合、生命保険に加入したまま生活保護を受けることはできないのでしょうか。
一旦解約し再加入をしても、病歴がある場合は加入が難しくなってしまう上に、もしできたとしても保険料は上がってしまいます。復帰後のことも考えると、加入したまま生活保護を受けたいですね。
残念ながら原則としては、生活保護の受給中は生命保険などに加入することはできません。また申請時に生命保険の加入が発覚した場合は解約を求められます。しかし、例外的に加入を続けられる場合もあります。今回は、なぜ加入できないのか、どういった場合が例外にあたるのかを学んでいきましょう。
生活保護を申請する際に受ける審査項目
福祉事務所は生活保護法29条の下に、生活保護申請者の収入や資産の状況について金融機関や雇主に報告を求めることができます。したがって生活保護の申請をする時は、以下の調査を受けます。資産を持っていないか、申請者を養える人はいないのかといったことを明らかにするためです。
審査項目1:戸籍・親族の確認
戸籍は身分や親族の有無を確認するために調べます。申請者を扶養できる親族がいる場合は、その援助を先に受ける必要があるためです。親族とは、親や兄弟、子供のことを指します。
審査項目2:貯蓄の有無
銀行などに預貯金がないかを調べます。通帳のコピーや給与明細などの提出を求められる他、福祉事務所は金融機関などにも照会をして確認します。したがって、申請者が嘘をついて資産を隠すことはできません。また、貯金だけではなく、車や不動産などの財産の有無もチェックされます。
審査項目3:保険の内容
資産として取り扱える保険に加入をしていないかを調査します。例えば、養老保険など終身型の保険に加入している場合は、保険料を積み立てることによって資産形成をすることが可能です。貯蓄ができるタイプの保険は資産と見なされ、原則、解約を求められます。
生命保険の解約を求められる理由
生活保護申請をする場合は基本的に、生命保険の解約を求められます。。解約返戻金がある場合は、いったんそのお金で生活し、それでもだめな場合に再び申請をしてくださいという流れです。
なぜ生活保護受給中に保険継続をしてはいけないかと言うと、生活保護で支給されたお金は税金によるものだからです。国民が働いて支払っている税金を使って資産形成をすることは、人さまのお金で資産形成をしていることになります。したがって、生活保護を受給する際は、基本的に生命保険の解約を求められます。
また、保険に入るメリットがないことも理由のひとつです。生活保護では医療費や葬祭の費用もまかなってもらえるため、保険に入るメリットが特別にあるわけではないと考えられています。
しかし例外的に、生命保険への加入を継続できる場合があります。全ての保険契約を必ず解約しなくてはいけないわけではなく、加入状況によっては福祉事務所に相談可能です。以下のような条件に該当する場合、生命保険の加入を継続させたまま生活保護を受給できる場合があります。
生命保険の契約継続が認められる条件
生命保険の契約継続が認められる条件をご紹介します。これらの条件を満たす保険契約であれば、加入や継続が認められるケースがあります。
条件1:解約返戻金がない、もしくは少額である
生命保険のうち、終身型の生命保険には解約返戻金があります。しかし定期型の場合は解約返戻金がない、またはあっても少額のため、生命保険を継続させたままにしておける場合があります。
その場合、解約返戻金は30万円以下または「医療扶助を除いた最低生活費の3ヶ月分以下」とされています。
最低生活費とは
生活保護には8つの扶助があり、最低生活費は「生活扶助+住宅扶助」の合計額に各種加算をして計算します。以下に8つの扶助をご紹介します。
1:生活扶助
日常生活に必要な費用で、食料・衣類・水道光熱費などの費用を基に算出されます。
2:住宅扶助
アパートなどの家賃、更新料、引っ越し料、地代などの扶助です。
3:教育扶助
子供が義務教育を受けるために必要な費用を負担してくれます。
4:医療扶助
通院や手術、薬など、医療サービスを受けるための費用を負担してくれます。費用は直接医療機関へ支払われます。
5:出産扶助
出産費用を負担してくれます。
6:生業扶助
就労するための技術の習得などにかかる費用を負担してくれます。
7:葬祭扶助
生活保護受給者が亡くなってしまった場合の葬儀費用などを負担してくれます。
8:介護扶助
高齢者や障害者など、介護が必要な方が介護サービスを受けるための費用を負担してくれます。費用は介護事業者に直接支払われます。
条件2:保険料が少額であること
生命保険の解約を求められるのは、税金によって資産形成されるのを防ぐためと、「保険料を支払えるなら生活ができるのではないか」といった懸念が理由です。
例えば保険料が数千円であれば、それで生活することは困難ですから申請が通る可能性があります。生命保険の中で保険料が安いのは、掛け捨て型のものです。掛け捨て型は資産形成するための保険ではなく、解約返戻金も原則ありませんから、生命保険の中でも申請が通りやすいと言えるでしょう。
条件3:死亡や高度障害への備えを目的とした保険であること
継続できる保険契約は、死亡や高度障害保障など危険への備えを目的としていることが条件です。
保険商品には、保障だけではなく貯蓄を目的としたものがあります。例えば、終身保険や養老保険などにも死亡保障は付いていますが、解約返戻金があるため、保障と同時に貯蓄ができ、資産と見なされます。一方、死亡や高度障害保障の付いた掛け捨て型は、解約返戻金が原則ないため、保障のみを目的とした保険です。
このように危険を目的とした保険は、加入や継続を認められるケースがあります。
名義変更によって保険を継続できるケースも
解約を求められた生命保険でも、契約者(保険料を支払う人)を変更することで継続できるケースもあります。
例えば、契約者を同一世帯ではない祖父母や父母、兄弟に変更する方法です。同一世帯ではないため、継続が認められる場合があります。一時的に生活保護を受給することになったが、いずれまた働きたいという方は、名義変更によって継続できないか検討しましょう。
ただし、自治体によっては名義変更しても解約を求めるケースがあるため、福祉事務所に事前に問い合わせてください。
解約の必要があるかないかは福祉事務所に確認をする
ここまで様々なケースを想定して説明してきましたが、最終的には自治体が判断します。
ご自身のケースで継続が認められるかどうかは、最寄りの福祉事務所に相談しましょう。
生活保護受給中に保険金を受け取った場合
もし生活保護受給中に、保険金を受け取ったらどうなるのでしょうか?
必ず申告しよう
生活保護を受給している間は、収入があったら福祉事務所に報告しなくてはいけません。保険金も一時的な収入とみなされるので、申告が必要です。
もし申告しないと生活保護の不正受給と判断される恐れがあります。
生活保護費を返還
保険金を受け取った場合はその分、自治体から生活保護費の返還を求められたり、休止されたりします。
保険金受取後も生活保護を受給したい場合は、原則返還となります。
まとめ
いかがでしたか?生活保護は不正受給の問題を防ぐため、審査が厳しくなっています。生命保険は原則、解約を求められますが、条件によっては継続を認めてもらえる場合もあります。
継続したい場合は、その根拠を福祉事務所にきっちりと説明できるようになっておく必要がありますね。現在、自分はどういった状況で、何のために生命保険に加入して、解約した場合どのような困難があるのかといったことを説明できるようにしましょう。
※2022年5月時点の情報です
監修:ファイナンシャルプランニング技能士 垣内結以