法人が養老保険を活用する方法とは?福利厚生・退職金に活用できる?

企業にとって、従業員の福利厚生や退職金制度の充実は優秀な人材を採用する上で重要なポイントの一つです。一方で、退職金に関しては中長期的な資金計画と密接に関わっていることから、導入するにあたって慎重に仕組みを検討しておく必要があります。

今回は法人が養老保険を福利厚生・退職金に活用する方法について解説します。養老保険を活用するメリットや契約時の注意点も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

養老保険の基礎知識

はじめに、養老保険の基礎的な知識を確認しておきましょう。そもそも養老保険とはどのような仕組みの保険なのか、保険金や解約返戻金はどうなるのかなど、養老保険への理解を深めましょう。

満期返戻金を受け取れる死亡保険

養老保険とは、死亡保障と貯蓄機能の両方を備えた保険です。被保険者が死亡した場合も存命の場合も、保険金を受け取れる仕組みの商品と捉えてください。

たとえば、保険金が1,000万円の養老保険に加入した場合、被保険者の死亡時に1,000万円が保険金の受取人へ支払われます。被保険者が死亡した時期に関わらず、契約の始期から満期の期間内であれば支払われる保険金は一定額です。

養老保険が満期を迎えた場合、被保険者が存命中であっても満期保険金が支払われます。保険金1,000万円で20年満期の養老保険であれば契約始期から20年が経過すると満期を迎え、満期保険金1,000万円を受け取れるのです。

養老保険の保険金と解約返戻金

前述の通り、養老保険の保険金額は契約の始期から満期まで一定です。では、満期を迎える前に養老保険を解約した場合はどうなるでしょうか。

養老保険には貯蓄機能があるため、満期前に解約した場合も解約返戻金が支払われます。ただし解約返戻金は一定額ではなく、満期が近づくにつれて高くなっていく点に注意が必要です。解約する時期によっては、払込保険料が解約返戻金を上回るケースが少なくありません。一方、満期が近づくと、養老保険の解約返戻金は払込保険料の総額に近くなっていきます。養老保険の保険金と解約返戻金の関係は、下図のイメージを参考にしてください。

養老保険を法人で活用する場合

養老保険を法人が活用する場合、保険金はどのような場合に支払われるのでしょうか。解約返戻金の活用方法と併せて確認しておきましょう。

従業員が在職中に死亡:死亡保険金が支払われる

法人が養老保険に加入する場合、契約者・保険金受取人が法人、被保険者が従業員となります。在職中に従業員が死亡した場合、死亡保険金が法人に支払われるという仕組みです。

企業は受け取った死亡保険金を従業員の遺族への弔慰金に充てることができます。したがって、福利厚生規程に「弔慰金」や「死亡退職金」などを定めた場合、いざという時には規程通りの金額を遺族に間違いなく支払うことができるのです。

満期以降に従業員が退職:満期保険金を退職金として活用

養老保険が満期を迎えると、死亡保険金と同額の満期保険金を受け取ることができます。満期保険金は従業員が将来退職した際の退職金として活用可能です。たとえば定年が60歳の企業であれば、22歳で入社した従業員は今後38年間勤務することになります。入社時に30年満期の養老保険に加入しておくことで、定年退職時に満期保険金を退職金として支給できるでしょう。

前述の通り、養老保険の満期保険金は死亡保険金と同額です。したがって、満期まで何事もなく勤務し退職を迎えた従業員に支払うべき退職金を計画的に準備できます。

満期前に従業員が退職:解約返戻金を退職金として活用

養老保険が満期を迎える前に従業員が退職した場合、保険を解約することで解約返戻金を受け取れます。企業は受け取った解約返戻金を退職に充てることができるのです。

養老保険を満期前に解約すると、払込保険料の総額よりも解約返戻金のほうが少なくなるのが一般的です。いわゆる元本割れとなるものの、解約返戻金を退職金に充当することで企業側が負担する金額を軽減できるでしょう。あるいは、退職金規程を養老保険の解約返戻金額に合わせて定めておくことで、退職金の支払いが財務を圧迫するリスクを回避できます。

養老保険を法人が活用するメリット

養老保険を法人が活用すると、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。具体的な活用方法と併せて見ていきましょう。

保険料の1/2を損金算入できる

法人が契約者の養老保険は、保険料の1/2を損金算入することができます。利益を圧縮し、税負担を軽減できるのです。従業員への退職金や、万が一の場合の弔慰金を計画的に準備しながら、節税にも役立つことは養老保険を法人が活用するメリットといえるでしょう。

なお、中小企業退職金共済を活用した場合、掛金は全額損金として算入可能です。養老保険の場合は保険料の1/2は損金算入できますが、残りの1/2は資産計上しなければなりません。したがって、養老保険の節税効果は中小企業退職金共済の半分となる点に注意が必要です。一方で、現金で退職金を積み立てる場合と比べると、半分を損金算入できるメリットは非常に大きいのです。

退職金を計画的に積み立てられる

養老保険には満期保険金があるため、従業員が定年退職する際に支払う予定の退職金を計画的に積み立てることができます。複数の従業員の退職が同時期に重なった場合、企業にとって退職金の支払いが少なからず負担になるケースもあるでしょう。養老保険の満期保険金を活用することで、退職金を支払う際の財務上の負担を軽減できるのです。

また、定年前の従業員が退職することになった場合も、解約返戻金を退職金に充当できます。養老保険の貯蓄機能を活用することで退職金を計画的に積み立てられることは、養老保険を活用するメリットの一つです。

退職金の給付条件を設定しやすい

養老保険の解約返戻金は、保険金・保険期間・解約する時期に応じて、あらかじめ決められています。短期間で離職する従業員の退職金は低く抑え、在職期間の長い従業員への給付を手厚くするといった柔軟な設定が可能です。解約返戻金額に合わせて退職金の給付条件を設定しておくことで、従業員の退職時期を問わず、退職金を無理なく支払うことができます。

従業員が懲戒解雇となった場合、解約返戻金の受取人である企業の規程にもとづき、退職金を支払わないという判断を下すこともできます。このように退職金規程と連動させることで退職員の給付条件を柔軟に設定できる点は、法人が養老保険を活用するメリットといえるでしょう。

従業員が死亡した際に遺族へ弔慰金を支払える

従業員が在職中に死亡した場合、養老保険の死亡保険金を弔慰金として遺族へ渡すことができます。中小企業退職金共済でも弔慰金の支払いは可能ですが、従業員が亡くなった時点までに積み立ててきた金額以上を支払うことはできません。養老保険の保険金は保険始期から満期まで一定額のため、加入期間に関わらず満額の保険金を受け取ることができるのです。

遺族への弔慰金を必ず準備できることは、従業員とその家族への保障を用意する上で重要な意味を持っています。不慮の事故など、突発的な事態に遭遇したとしても、企業は従業員の遺族に対して手厚い保障を提供できるからです。不測の事態に備えられることは、養老保険が「保険」だからこそ実現可能なポイントといえます。

緊急予備資金として活用できる

養老保険の契約条件によっては契約者貸付を活用できます。契約者貸付とは、解約返戻金の90%程度までの範囲内で保険会社から貸付を受けられる制度です。万が一会社の資金繰りが悪化して一時的に資金が必要になった場合に、貸付金を緊急予備資金として活用できます。

また、資金繰りが悪化した場合には、養老保険の一部または全部を解約することで解約返戻金を受け取り、事業資金に充てるという選択肢もあります。もちろん、本来は従業員に支払うべき退職金に充てる目的で加入している保険ですので、解約するにあたって従業員に十分な説明をしなくてはなりません。いずれにしても、いざという時の資金繰りに対応するための手段が確保できることは、養老保険を法人が活用するメリットといえるのです。

養老保険を法人が活用する際の注意点

養老保険を法人が活用するメリットが数多くある一方で、注意すべき点もあります。次に挙げる2点については、養老保険を活用する際に必ず押さえておきましょう。

保険料の支払いが負担になる可能性がある

養老保険に加入する以上、保険料の支払いが毎年発生します。保険料の1/2が損金算入できるとはいえ、損金を上回る営業利益が出ていなければメリットを活かすことができません。毎年コンスタントに利益が出ていないと、保険料の支払いが負担になりやすい点に注意が必要です。

後述する通り、養老保険を退職金の支払いに活用する場合、退職金規程を整備しておく必要があります。退職金規程は一度整備すると容易に変更・撤廃できないため、将来的なキャッシュフローを見据えて、無理のない範囲で保険料を設定することが大切です。現状の経営状態や今後の事業計画を慎重に検討した上で、養老保険を活用するべきか判断しましょう。

従業員が頻繁に入退社すると元本割れしやすい

養老保険を短期間で解約した場合、解約返戻金の返戻率が低くなります。払込保険料の総額よりも解約返戻金が低くなり、元本割れするのが一般的です。したがって、従業員が一定以上の期間在籍していなければ養老保険のメリットを活かせません。

従業員が頻繁に入退社すると、解約時の元本割れが頻発することになり、損をしてしまいます。自社の平均在籍期間と照らし合わせ、出入りが激しい状況が続いていないか確認しておきましょう。中小企業退職金共済の場合、2年以上の加入期間があれば掛金の総額を上回る退職金が支払われます。従業員が頻繁に入退社しがちな企業の場合、養老保険よりも中小企業退職金共済のほうが適しているケースもあるのです。

養老保険を法人が活用する際の注意点

法人が養老保険を活用する際の注意点について解説します。個人が生命保険を契約するケースとは異なるルールがありますので、次の2点を必ず押さえた上で養老保険を活用してください。

原則として全従業員が被保険者になる必要がある

福利厚生の一環として養老保険を活用する場合、原則として全従業員が被保険者になる必要があります。役員だけが養老保険に加入したり、一部の従業員が加入を見合わせたりするといった特例は設けられない点に注意してください。

ただし、被保険者になる必要があるのは「従業員」ですので、役員を除外することは認められています。たとえば、全従業員を養老保険の被保険者とし、役員は逓増定期保険や長期平準定期保険に加入するといったことは可能です。反対に、役員および全従業員が養老保険に加入することももちろんできます。被保険者の対象となるのが「全従業員」である点を押さえておきましょう。

福利厚生規程を整備する必要がある

養老保険を退職金として活用する目的で加入するのであれば、福利厚生規程を整備し、内外に明示できるようにしておく必要があります。保険料の1/2を損金算入することが認められるのは、福利厚生の一環として退職金に活用することが明確になっている場合のみです。したがって、退職金制度を明文化し、在籍年数と退職金支給率の関係を示す必要があります。

また、退職金制度を明文化しておくことは、従業員が在職中に死亡した場合に遺族との間でトラブルが発生するのを避けるためにも重要です。養老保険の保険金を死亡退職金として遺族に支払うことを明示することで、保険金とは別に死亡退職金が支払われるといった誤解を招くのを防ぐことができます。

まとめ

法人が養老保険を活用することで、退職金を計画的に積み立てることができます。万が一、従業員が在職中に死亡した場合、加入期間が短くても死亡退職金を必ず支払えることも大きなメリットです。死亡保障と貯蓄機能を併せ持った養老保険を法人が活用することは、将来の財務リスクに備えるための合理的な選択といえるでしょう。

法人が養老保険を活用するメリット・注意点を理解した上で、ぜひ養老保険を効果的に活用してください。従業員への手厚い保障を整えられるだけでなく、企業にとって効果的な財務リスクへの備えにもなるはずです。

参考サイト

・養老保険で従業員の退職金を準備するメリット・デメリット
>https://hoken-kyokasho.com/yourouhoken-taishokukin

・保険で退職金を積み立てるとは?|退職金を保険で積み立てるメリット・デメリット【お金の学校】
https://serai.jp/living/1069723

※2022年9月時点の情報です