生命保険の死亡保険金にかかる相続税|計算手順と相続税対策ガイド
2023年4月22日
生命保険を活用すると相続税対策になりますが、死亡保険金を受け取った場合の相続税は一体いくらかかるのでしょうか。この記事では相続税の計算方法と、保険金を受け取った場合の節税対策、受取人の違いによって発生する相続税以外の税金について解説します。
死亡した際の保障が主な目的となる生命保険と、遺産相続の時に課税される相続税は切っても切り離せない存在です。被保険者が亡くなった際の遺産として死亡保険金を受け取れば、相続税や他の税金が発生することがあります。
ここで注意しなければいけないのは、保険料を支払っている契約者、保険をかけている被保険者、そして保険金を受け取るのが誰なのかで、発生する税金が違うという点です。
《死亡保険金にかかる税金》
契約形態 | 契約者 | 被保険者 | 死亡保険金
受取人 |
税金の種類 | |
死亡時一括 | 年金形式 | ||||
契約者と被保険者が
同一人物の場合 |
A
(例:夫) |
A
(例:夫) |
B
(例:妻) |
相続税 |
所得税 (雑所得) |
ただ、生命保険が相続税対策にかなり有効に働くのも事実です。今回は、生命保険に加入する方向けの「生命保険を使った相続税対策」と、今後生命保険の保険金を受け取ろうとしている方向けの「生命保険の保険金に対する税金」この二つの観点から、生命保険と相続税について解説していきます。
そもそも相続とは何か?受取人になれる人
生命保険に加入する時、契約者が死亡保険金の受取人を選びますが、誰にするべきか迷われている人も少なくないでしょう。
実は、受取人にできる人には範囲があり、誰でも好きに選べるわけではありません。
また、受取人を誰にするかで、死亡保険金を受け取った時にかかる税金が変わってきます。
相続税について見る前に、まずは死亡保険金の受取人になれる人をご説明します。
死亡保険金の受取人になれる人
死亡保険金の受取人に指定できる人は、不正を防止するために各保険会社によって規定されており、基本的には以下の通りです。
①被保険者の戸籍上の配偶者
②被保険者の1親等の血族(親・子)
③被保険者の2親等の血族(祖父母・兄弟・姉妹・孫)
生命保険は万が一の時、残された人の生活を保障するものですので、以下の条件を満たした場合には、内縁者や婚約者でも受取人に指定できるケースがあります。
・被保険者と受取人に指定したい人双方が独身であること
・被保険者と生計を同一にしていること
・結婚する予定であること など
これらの情報を踏まえたうえで、死亡保険金を受け取った場合の相続税について見ていきましょう。
生命保険の死亡保険金を受け取った場合の相続税と節税の仕組み
相続税の節税で生命保険を活用すべきなのは、生命保険金には非課税制度があるからです。非課税枠が設定されており、一定額までは税金がかかりません。
ここでは相続税が節税できる仕組みをお伝えし、どれくらい節税効果があるのかシミュレーションしてみます。
生命保険で相続税が節税できる仕組み
生命保険の受け取り金には、相続税が非課税となる枠が設定されています。ですから、非課税となる金額の枠内であれば、税金を払わず相続する財産を受け取れるのです。
なお、生命保険の受け取り金が非課税となる金額は以下のように計算されます。
500万円×法定相続人の数 |
では、節税対策として生命保険を活用することで、どれほど節税できるのか、具体的な例で示してみましょう。
生命保険を活用した場合どれくらいの節税効果があるのか?
【想定】
遺産総額:8,800万円 家族構成:夫、妻、子供2人(長女、次女)
夫の死亡により、法定相続人である妻と子供2人が相続する。
生命保険を活用しない場合
相続税:450万円
①課税遺産総額を計算する
3,000万円+600万円×3人=4,800万円=基礎控除額 8,800万円-4,800万円=4,000万円=課税遺産総額 ②法定相続分に基づいて課税遺産総額を分ける 妻:4,000万円× 1/2=2,000万円 ③相続税率をかける 妻:2,000万円×15%-控除額50万円=250万円 ③相続税額の合計額を算出 250万円+100万円+100万円=450万円 |
生命保険を活用した場合
相続税:262万5,000円
※遺産総額8,800万円の内、2,000万円を生命保険分とする。
①生命保険の非課税分と課税額を計算する 500万円×3人=1,500万円=生命保険を活用した非課税分 2,000万円-1,500万円=500万円=課税額 ②課税遺産総額を計算する その他の資産6,800万円+生命保険の課税額500万円-基礎控除4,800万円=2,500万円 ③課税遺産総額を法定相続人で分ける 妻:2,500万円× 1/2=1,250万円 ④相続税率をかける 妻:1,250万円×15%-控除額50万円=137万5,000円 ⑤相続税額の合計額を算出 137万5,000円+62万5,000円+62万5,000円=262万5,000円 |
なんと!その差額187万5,000円!!これで節税対策としての生命保険の有効性がはっきり分かりますね。
また、直接的な節税対策とはなりませんが、生命保険は相続税を支払うための準備金にもなります。相続はいつ起こるか分からないものです。しかし、相続が発生したとなると、10ヶ月以内に相続税を納めなければなりません。
税金を納められるだけの十分な財産があれば問題ありませんが、それがない場合は大変です。相続税の分割払いや物納という手段もありますが、分割払いは利息が発生しますし、物納も様々な条件があって、何でもいいという訳ではありません。
そんな時、生命保険の死亡保険金が納税資金として役に立つ場合があります。
相続税対策をするなら「終身保険」
相続税対策を目的とするなら、ズバリ!「終身保険」がいいでしょう。相続税は誰かが亡くなることで発生しますから、相続税対策として活用するなら、死亡時に保険金が支払われるかどうかが肝心です。
定期保険や養老保険は、死亡保障が一定期間に限られるため、その期間が過ぎれば死亡による保険金は支払われません。相続税対策としては不向きです。
一方、終身保険は保障が一生涯続く商品です。人はいつか亡くなるので、中途解約しなければ必ず死亡保険金を受け取れます。
生命保険を使った最大の相続税対策|一時払い終身保険
もしもこちらをご覧の方が高齢で、相続税対策をしたいとお考えでしたら、ぜひとも加入を考えてほしい生命保険があります。それは「一時払い終身保険」です。
簡単に言うと、保険料を一括で払う終身保険のことです。一時払い終身保険が相続税対策に非常に向いている理由としては以下の特徴があります。
一度に大きな資金を移すことができる
終身保険は年払いや半年払い、月払いなど様々な支払い方法があります。しかし、一時払い終身保険なら一括でまとまったお金を保険に移動できます。
例えば、高齢の方が不動産や預貯金など相続税の課税対象となる財産を多く持っていると、亡くなってしまった時に相続税がたくさん徴収される可能性があります。
預貯金が多いのであれば、その一部で一時払い終身保険に加入することで、上記でお伝えした生命保険の非課税分で相続税の課税対象額を大幅に下げることが可能です。
加入の条件が易しい
通常の終身保険であれば、年齢制限や健康状況などの加入の条件があります。しかし、一時払い終身保険は厳しい加入の条件がないことが特徴です。高齢の方や持病のある方も審査に通りやすい商品がたくさんあります。
つまり、晩年になり「預貯金が多い!このままでは相続税が・・・」と気付いたとしても一時払い終身保険なら加入できるチャンスが十分にあると言えるのです。
生前贈与制度の利用も有効
さらに、ここでポイントとなるのが、生前贈与の制度を上手く利用することです。生前贈与の場合、年間110万円以下は非課税となります。
このようにすることで、相続税の課税対象となる額を減らすことができます。
生前贈与として認められるための4つの注意点
・①贈与契約書を作成する。
贈与が行われる度に、その贈与について贈与者(親)と授受者(子)、双方がその意思を表示し、それを書面に残しておきましょう。第三者に証明できるので安心です。
・②贈与額と贈与時期を毎年変える。
毎年同じ時期に同じ額の贈与が継続して行われると、税金対策のためにわざと分割して贈与を行っているとみなされ、多額の贈与税が課せられてしまいます。時期や額を変えることが重要です。
・③通帳と印鑑は贈与を受けた人(子)が管理する。
贈与を受けた人が財産を管理し、自由にできる状態にしておかなければなりません。
・④亡くなる前3年以内に行われた生前贈与には相続税が課税される。
相続開始前の3年間に受け取った贈与は、贈与税の非課税枠内でも相続財産とみなされ、課税対象となります。
死亡保険金の受取人の違いで相続税以外の税金が発生する場合もある
生命保険の「契約者」「被保険者」「保険金の受取人」の設定によっては、相続税として扱われない場合があります。保険金の受取額が同じであっても、多額の税金を納めなければならなくなるかもしれません。その注意すべき税金が所得税と贈与税です。
所得税が課せられるケース
契約者 | 被保険者 | 保険金の受取人 |
夫 | 妻 | 夫 |
「保険契約者=保険金の受取人」となっていると、契約者となっている人の一時所得とされるのです。
所得税の課税対象となる一時所得は次のように計算します。
(受け取った死亡保険金-支払った保険料の総額-50万円)×1/2 |
またこの場合、所得税に加えて住民税も課せられることになります。
贈与税が課せられるケース
契約者 | 被保険者 | 保険金の受取人 |
夫 | 妻 | 子 |
この場合、夫つまり父から子へ保険金が贈与されたものなり、贈与税となります。贈与税は基礎控除額が110万円しかなく、税率が高めです。
受け取る保険金と税金の関係については以下のコラムもご覧いただくことをおすすめします。
生命保険を活用した相続税対策は遺産分割の面でもメリットがある
生命保険は、遺産分割の場面でも活用できます。相続財産は現金とは限りません。例えば、相続財産が不動産である場合、複数の相続人に分割することはなかなか難しいですね。このような場合、「代償分割」という方法で遺産分割となり、ここに生命保険を活用できるのです。
不動産を1人の相続人が取得し、その1人が他の相続人に相当の現金(代償金)を支払って、遺産分割のバランスをとります。これが「代償分割」です。しかし、不動産を相続した人が現金を持っていないと代償金を支払うのが難しくなってしまいます。
そこで、保険金の受取人を不動産を相続する人にして、生命保険に加入しておきます。死亡保険金を受け取った人は、保険金を代償金に充てるのです。
ただ、これらの場合には生前に相続人とよく話し合い、その内容を遺言書として残しておくほうが、相続争いを回避するためにいいでしょう。
また、生命保険の保険金は、指定された受取人の固有の財産となるので、遺産分割の協議を必要とせず、受取人が単独で生命保険会社に申請し、受け取ることができます。他の相続人の承認等が不要なため、遺産を残したい人に残したい金額を確実に渡すことが可能です。
「終身保険」のデメリットは、保険料、早期解約、見直しのしづらさ
相続税対策の観点で「終身保険」をおすすめしましたが、実際に加入した際のデメリットも理解しておきましょう。
主なデメリットとして
・保険料が高い
・早期解約は損をする
・保険の見直しがしづらい
が挙げられます。
いつか人は亡くなってしまうので必ず保険金が受け取れること・貯蓄性があることから、保険料は割高となっています。早期解約の場合は解約返戻金の額が低く、これまで支払った保険料が100%戻ってくるケースはほぼありません。元本割れを起こすリスクがあることを覚えておきましょう。
今回ご紹介した「終身保険」のメリット・デメリットを把握したうえで、ご自身の家計や目的と照らし合わせてみてくださいね。
法定相続人の範囲と相続税率
そもそも、法定相続人となるのはどの範囲の人たちなのか、また、相続税率はどれ程のものなのか、という点も抑えておきましょう。
まず、「法定相続人」の範囲を以下に簡単にまとめてみました。
1.配偶者【常に相続人】
2.被相続人(亡くなった人)の子(子が死亡している場合は孫)【第1順位】
3.被相続人の父母(父母がいない場合は祖父母)【第2順位】
4.被相続人の兄弟姉妹(死亡している場合は兄弟姉妹の子)【第3順位】
以下に、よくあるパターンをご紹介します。
相続人 | 法定相続分 | |
配偶者と子がいる | 配偶者
子 |
1/2
1/2 |
配偶者はいるが子はいない | 配偶者
父母 |
2/3
1/3 |
配偶者はいるが子と父母がいない | 配偶者
兄弟姉妹 |
3/4
1/4 |
配偶者は亡くなっており、子のみいる | 子 | 全部 |
独身で父母が存命 | 父母 | 全部 |
独身で親も祖父母も死亡しており、兄弟姉妹のみいる | 兄弟姉妹 | 全部 |
次に、相続税率です。
法定相続分に応ずる取得金額 相続税率(%) 控除額 1,000万円以下 10% - 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 1億円以下 30% 700万円 2億円以下 40% 1,700万円 3億円以下 45% 2,700万円 6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円
相続税は、取得金額が上がるほど税率が高くなる仕組みです。
まとめ
相続は自分が死んだ時のこと、身近な誰かが亡くなった時を想定して考えなければならないことですから、気がすすまない…という人もいるかもしれません。ですが、残すもの、残してくれたものをいかに守るかを考えることになりますし、生前から対策をきちんとしておけば、節税はもちろん、相続人同士の無駄な争いも回避できます。
活用できるものは上手に活用して、財産をしっかり守りましょう。
※2022年9月時点の情報です
監修:ファイナンシャルプランニング技能士 垣内結以