大切な資産を守るための相続税対策、全手法
2023年11月29日
相続の際は親族同士の話し合いが大切ですが、相続税対策も忘れてはいけません。亡くなった方の財産を受け取る際には相続税を納める必要があり、取得金額に応じて税率と控除額が決められています。
相続税の税率は取得金額が1,000万円以下であれば10%ですが、6億円を超えると55%です。
しかし、相続したら必ず相続税を納めるわけではありません。
その理由は「税金の控除」が存在しているからです。この税金の控除に有効なのが生命保険です。今回は生命保険を使った相続税の控除の方法をメインにお伝えします。
保険を活用した相続税対策以外も解説していきますので、相続税でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
相続税とは
生命保険を活用した相続税対策をお伝えする前に、相続税について大まかな説明をしていきます。
相続とは、ある人が死亡した時、その人の財産を配偶者や子、親族などの相続人に受け継がせることです。財産には、預貯金や有価証券、不動産などの財産のほかに、借入金や未納の税金といったマイナスの財産も含まれます。
相続をすれば、マイナスの財産も受け継いでしまうため、相続人には以下のように財産を引き継ぐかどうかの選択肢が与えられています。
単純承認:すべての財産を引き継ぐ
限定承認:債務の責任範囲をプラスの財産の範囲に留める
相続放棄:マイナスの財産を含め、すべての財産を受け取らない
「限定承認」「相続放棄」を行う場合は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申請をする必要があります。
相続税がかかるもの
相続したものには税法上で決められたルールに則って一定の税金がかかります。そして、相続税は原則として相続や遺贈によって取得した財産のすべてが課税対象になります。
相続税がかかるものには以下のような種類があります。
・不動産:土地、建物など
・金融資産:現金、預貯金、有価証券など
・金額に見積もり可能な権利:貸付金、特許権、営業権など
・みなし相続財産:死亡保険金、死亡退職金など
この中で「みなし相続財産」と呼ばれるものが、「生命保険を使った相続税の節税」に関係します。後ほど詳しくご説明しますので覚えておいてください。
「民法上の相続財産」と「税法上の相続財産」の違い
ここまで相続や相続税について簡単な説明を行ってきましたが、もう少しだけ難しい話が続きます。相続される財産は、どの法律でも扱いは「相続財産」ですが、「民法」上と「税法」上では扱い方が異なります。
簡単な違いをイメージしてもらうと、次のような感じです。
・民法上の相続財産:遺言や遺産分割協議をする場合などで対象になるもの
・税法上の相続財産:相続税を申告する場合に対象になるもの
先ほど説明した項目の中で、
「不動産:土地、建物など」
「金融資産:現金、預貯金、有価証券など」
「金額に見積もり可能な権利:貸付金、特許権、営業権など」
上記3点は民法上で相続財産となり、親族同士の遺産分割協議の対象になります。親族間で相続遺産について取り決めがスムーズに進まない場合、民法を適用して法律上で取り決めを行うわけです。
「みなし相続財産」には税金の控除がある
一方、「みなし相続財産」とされる「死亡保険金、死亡退職金など」は被相続人が生前から持っていた財産ではありませんので、民法上は相続財産として遺産分割協議の対象にはなりません。
そして、すべての相続財産は、税法に則り同様に課税の対象になりますが、「みなし相続財産」などいくつかの控除条件を満たすと、一定額までは非課税財産として控除できます。
「みなし相続財産」の場合、その金額は500万円×法定相続人です。
※「法定相続人」には相続放棄人(相続を受け取らないことを選んだ人)を含みます。
この「みなし相続財産」の控除が使えるため、生命保険は一般的な相続税対策として使われています。
難しい単語が並びましたが、要約すると、相続税がかかる資産にはいくつかの種類があり、死亡保険金には相続税の控除が使えます、ということです。
それでは、生命保険を使った相続税対策にはどのような方法があるのでしょうか?次の項目でご説明します。
生命保険を使った相続税対策のやり方
生命保険を使った相続税対策のやり方ですが、基本的に生命保険に加入して受け取る人を指名しておけば大丈夫です。
相続税対策で加入するなら、保険料が掛け捨てになる定期保険より、積み立てできる終身保険がいいでしょう。
通常、人が亡くなるとその人の銀行口座は凍結され、お金が引き出せなくなります。
相続人の戸籍謄本や印鑑証明書など必要書類を揃えて提出すれば凍結解除できますが、相続人同士でもめてしまうと、お金を引き出せずに納税ができない、ということもあります。
保険の場合は、保険金受取人に指定された人が手続きを済ませればお金を受け取ることができますし、被保険者が保険金の受け取り人を事前に指定できるため、相続の時に遺族がもめる原因を少なくすることができます。
この時に注意しておきたいのが、加入時に健康条件が審査に引っかかり、保険に加入できないことです。そんな時は保険料を全額最初に払う「一時払終身保険」がおすすめです。「一時払終身保険」は通常の終身保険よりも加入時の健康条件が緩く設定されているため、加入しやすいです。
健康条件が気になる時は、「一時払終身保険」への加入を選択肢のひとつに入れておきましょう。
生命保険を使った相続税対策のメリット・デメリット
この項目では生命保険を使った相続税対策のメリット・デメリットについて説明していきます。
メリット
・控除による節税が期待できる
先述したことですが、「みなし相続財産」とされる「死亡保険金、死亡退職金など」は被相続人が生前から持っていた財産ではありませんので、税金の控除が行われます。その金額は「500万円×法定相続人」で、その範囲内であれば税金がかかりません。
・受取人を指名できる
保険は加入時に保険金の受け取り人を選ぶことができます。そのため、「相続問題」と言われる相続の際の親族の争いを避けることが可能です。
例えば、兄と弟の2人のお子さんがいる場合、自宅を兄に、自宅と同等額の保険金の受取人を弟にすることで、両者が納得する形で相続しやすい状況を作り出すことができます。
・相続税用の支払い金を用意できる
先述したように、人が亡くなると銀行口座は凍結し、相続人全員の協力がなければお金を引き出すことができません。
そのため、相続の話がまとまらないと相続税を支払うことすらままならなくなります。しかし、生命保険は保険金受取人が手続きをするとすぐに支払われるので、現金を速やかに用意できます。
デメリット
・生命保険に加入できない場合がある
生命保険には加入時に健康状態を報告する必要があります、そのため、高齢になったり加入時に持病を抱えていたりすると、健康条件に引っかかり、相続税対策の保険加入ができなくなってしまいます。
先述しましたが、そんな時は「一時払終身保険」が使えます。高齢または持病のある方は「一時払終身保険」を探してみてください。
・受け取り人は慎重に選ぶ必要がある
もし受取人に多額の保険金が支払われてしまう場合、民法上の遺産分割協議ができないため、不公平な状況が発生してしまいます。あらかじめ遺言状などを作り、相続の際に親族が争わない状況を作ることも必要です。
保険以外の相続税対策
生命保険以外に相続税の対策をするにはどうすればいいのでしょうか?この項目では生命保険以外の相続税対策についてお伝えしていきます。
相続人を増やして基礎控除額を増やす
相続税は相続人が増えるほど、節税効果が高まります。例えば、基礎控除額は「3,000万円 +(法定相続人の数×600万円)」です。法定相続人の数が増えれば、それだけ基礎控除額を増やせます。
子の配偶者や孫を養子にして相続人を増やすことが相続税対策として有効です。
お墓や仏具を購入しておく
墓地や墓石、仏具などは相続税の非課税財産とされています。生前に購入しておくと、相続税がかかることなく遺族に渡せます。
ローンを組まず、現金一括で購入しましょう。
小規模宅地等の特例で所有財産の評価額を下げる
小規模宅地等の特例が適用されると、土地の評価額を80%減らすことができ、相続税評価額が減額されます。上限面積や対象者、対象物が決まっているので、条件を確認してみてください。
参考:国税庁|相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
生前贈与をして財産を減らしておく
相続税対策で王道と言ってもいい方法として、生前贈与があります。被相続人が生存しているうちから少しずつ財産を渡していくことです。しかし、生前贈与に関しては「非課税枠が少ないこと」と、「非課税枠を超えると相続税よりも高い税率になる」という注意点があります。
生前贈与では、年間110万円超の贈与を行なうと贈与税が課されます。そして、贈与税の税率は相続税よりも高いです。数年に分けてちょっとずつ贈与していくことをイメージしてください。
相続税の控除の種類
最後に、相続の時に利用できる税金の控除の方法を6つ紹介します。以下の方法の中には狙ってできるものは多くはありませんが、知っておくと得になることもあるかと思います。
①贈与税額控除
相続開始前3年以内の贈与財産は、相続税の対象となります。ですから、贈与した時に支払った贈与税を相続税から差し引き、二重に税金がかからないように設けられているのです。
②配偶者控除
法定相続分または1億6,000万円までなら、税金はかかりません。
③未成年者控除
満18歳未満の人が相続人の場合、税金は安くなります。
④障害者控除
85歳未満の障害者が相続人の場合、税金は安くなります。
⑤相次相続控除
10年以内にたて続けに相続があった場合、2回目以降の相続では税金の一部が免除されます。
⑥外国税額控除
海外で相続税を払った場合、その金額分が日本の相続税から控除されます。
まとめ
ここまで生命保険を活用した相続税対策と一般的な相続税対策をご紹介しましたが、法律も関わってくる問題だけに、ご紹介しきれないことも数多くあります。そのため、専門家であるファイナンシャルプランナーや税理士、弁護士などに相談することが相続税対策の一番の近道です。
※2023年9月時点の情報です
監修:ファイナンシャルプランニング技能士 垣内結以