【完全版】生命保険の受取人|指定できる範囲と受取人別の税金の種類
2023年6月15日
生命保険の死亡保険金の受け取りは、受取人を誰にするかでかかる税金が変わってきます。この記事では受取人を誰に(妻や子供)指定すると何の税金がかかるのか、指定する受取人を誰にするのが一番いいのか、そして受取人を変更する際の見直しポイントなどを解説しています。
生命保険に加入する時、保険の契約者(保険会社と契約を結んだ人)が死亡保険金の受取人を選びますが、誰にするべきか迷われている人も少なくないでしょう。
実は、受取人にできる人には範囲があり、誰でも好きに選べるわけではありません。
また、受取人を誰にするかで、死亡保険金を受け取った時にかかる税金が変わってきます。
適切な人に適切な金額を残しておくことが生命保険の大切な役割です。生命保険を契約する際、保障範囲や保険料にばかり注目せず、受取人についても考える必要性があります。
この記事では、生命保険の保険金『受取人』に焦点をあてて、受取人として指定できる範囲や、税金の種類、税金を安く抑えるコツなどを紹介します。
生命保険の保険金受取人になれる人
前述のとおり、生命保険の受取人は誰でもなれるわけではありません。また、一度受取人を決めたとしても、契約後変更もできるのです。
ここでは、保険金の受取人になれる人と変更の手続きに関して紹介します。
なお、この記事では以下の用語を多用しますので、ご存じない人は参考にしてください。
用語 | 解説 |
保険契約者 | 保険会社と保険契約を結ぶ人。保険契約に関わる様々な権利(契約内容変更などの請求権)と義務(保険料の支払義務)を持つ。 |
被保険者 | 生死・病気・ケガなどの保障の対象となっている人。生命保険では、被保険者が死亡した場合受取人に死亡保険金が支払われる。 |
受取人 | 保険金・給付金・年金などを受け取る人。生命保険では死亡保険金を受け取る。 |
受取人になれる人の範囲
生命保険の受取人に指定できる人は、不正を防止するために各保険会社によって規定されており、基本的には以下の通りです。
- ①被保険者の戸籍上の配偶者
- ②被保険者の1親等の親族(親・子)
- ③被保険者の2親等の親族(祖父母・兄弟・姉妹・孫)
また、保険会社によっては被保険者の3親等以内(伯父・伯母・甥・姪)を受取人に指定できるケースもありますので、2親等以内の親族がいない場合や強いこだわりがある場合には、一度保険会社に確認してみましょう。
内縁・婚約者・同性パートナーを受取人に指定できるケースも
生命保険は万が一の時、残された人の生活を保障するものです。以下の条件を満たした場合には、内縁者や婚約者でも受取人に指定できるケースがあります。
- ・被保険者と受取人に指定したい人双方が独身であること
- ・被保険者と生計を同一にしていること
- ・結婚する予定であること など
また、近年は同性パートナーを受取人に指定できる保険会社も増えています。
内縁者や婚約者、同姓パートナーを指定できるかの条件や手続き方法などは保険会社によって変わりますので、気になる人は各保険会社に問い合わせるようにしてください。
受取人は複数指定できる
受取人を複数人指定することも可能です。
例えば、あなたに子供が2人いて、どちらにも財産を残したい場合には、2人とも受取人に指定できます。
その際は、保険金を受け取る割合を決めます。
長男に70%、次男に30%といったように、受取人別にどの程度保険金額を割り当てるかをあなたが決められるのです。
受取人は変更できる
保険金の受取人は、変更することが可能です。
契約時は子供が小さく、受取人を妻にしていたけれど、夫婦ともに高齢となった場合や離婚した場合など、受取人を変更したい場合には、通常何回でも変更できます。
なお、変更時には受取人の承諾は必要ありませんが、被保険者の承諾は必要です。
死亡保険金は受取人によってかかる税金が変わる
死亡保険金は「相続財産」ではなく「受取人の固有財産」です。
遺産分割の対象にはなりませんが「みなし相続財産」に該当するため課税対象となります。
かかる税金としては贈与税、相続税、所得税(+住民税)の3種類があり、保険契約の形によってそれぞれの税金がかかります。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
夫 | 夫 | 妻(子供) | 相続税 |
夫 | 妻(子供) | 子供(妻) | 贈与税 |
夫 | 妻(子供) | 夫 | 所得税・住民税 |
保険契約の形は、保険料を支払う人(契約者)、保険の対象となっている人(被保険者)、保険金を受け取る人(保険金受取人)が誰なのかによって分別されます。
ここでは、生命保険金にかかる税金について解説します。
パターン1:贈与税がかかる
契約者、被保険者、保険金受取人の全てが異なる人の場合は贈与税がかかります。
例えば契約者が夫、被保険者が妻、保険金受取人が子供といったパターンが挙げられます。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
夫 | 妻 | 子供 | 贈与税 |
夫 | 子供 | 妻 |
パターン2:相続税がかかる
契約者と被保険者が同じ人の場合は相続税がかかります。
例えば、契約者と被保険者が夫、保険金受取人が妻や子供といったパターンが挙げられます。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
夫 | 夫 | 妻 | 相続税 |
夫 | 夫 | 子供 |
パターン3:所得税と住民税がかかる
契約者と保険金受取人が同じ人の場合は、所得税がかかります。
例えば、契約者と保険金受取人が夫、被保険者が妻といったパターンが挙げられます。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
夫 | 妻 | 夫 | 所得税・住民税 |
夫 | 子供 | 夫 |
どの契約形態にどの税金がかかるのか、そこまで複雑ではありません。
死亡保険金以外にも、養老保険の満期保険金や個人年金保険の年金、学資保険や生命保険などの祝い金、生存給付金などを受け取る際にも税金が発生します。
満期保険金や解約返戻金を受け取る際も課税対象
満期保険金や解約返戻金を受け取る際も、保険料の負担者(契約者)と受取人が同じなら所得税の課税対象です。
ただし、支払った保険料より50万円以上多くなければ特別控除として非課税です。
(満期保険金−払込保険料の総額−特別控除50万円)×1/2 |
表:契約者(保険料の負担者)と受取人の関係
契約者(保険料の負担者) | 受取人 | かかる税金 |
夫 | 夫 | 所得税 |
夫 | 妻 | 贈与税 |
満期金を受け取った際の課税関係については「国税庁」に記載がありますので、確認しておくのがいいでしょう。
所得税が課税される場合
所得税が課税されるのは、上記「満期保険金等の課税関係の表」のように、保険料の負担者と保険金受取人とが同一人の場合です。この場合の満期保険金等は、受取の方法により、一時所得または雑所得として課税されます。
贈与税が課税される場合
贈与税が課税されるのは、上記「満期保険金等の課税関係の表」のように、保険料の負担者と保険金の受取人が異なる場合です。
死亡保険金の受取人は誰にするのが妥当なのか?
保険の原則は「不安を取り除くこと」です。
生命保険に加入することでどういった不安を取り除きたいのか、冷静に考えてみましょう。
基本は配偶者や子供にしておくのが安心
もし配偶者や子供たちの生活を心配するのならば、保険金受取人は配偶者や子供にしたほうがいいですし、両親の老後が心配という場合は両親を受取人にしたほうがいいでしょう。「どんな不安を取り除きたいのか」という基準で受取人を考えてください。
ただし、受取人は誰でもいいというわけではなく指定できる範囲が決まっています。その点はご注意ください。
受取人に指定できる人がいない場合
もし2親等までの親族がいない場合や、いても受取人に指定できない状況であれば、他の人を指定することも可能ではあります。 ただし、親族以外を受取人に指定できるかは保険会社によって異なるので、保険会社に問い合わせて確認しておくのがいいでしょう。
保険金を受け取る時にかかる税金を安くするには
配偶者や子などに残す保険金、できるだけ多く受け取らせてあげたいですよね。
どのような工夫をしたら多く受け取ることができるのでしょうか。それぞれの税金について、どの程度の非課税枠があるのか見ていきましょう。
贈与税
贈与税がかかるのは、契約者、被保険者、保険金受取人の全てが異なる場合。
贈与税には基礎控除があり、死亡保険金から110万円を引いた金額が課税対象となります。
贈与税の課税対象金額 |
死亡保険金-110万円 |
相続税
相続税がかかるのは、契約者と被保険者が同じ人の場合。
非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」です。
死亡保険金から非課税額を引いた金額が課税対象となります。
贈与税の日課税額 |
500万円×法定相続人の人数 |
法定相続人とは、被相続人が亡くなった際に相続の権利をもつ人のこと。
被相続人の配偶者や子供などが法定相続人の例として挙げられます。
なお、相続税は配偶者控除(配偶者の税額の軽減)があるため、1億6,000万円または配偶者の法定相続分までは非課税です。
所得税
所得税がかかるのは、契約者と保険金受取人が同じ人の場合です。死亡保険金を一時所得とみなして課税されます。
保険金総額から、今まで払い込んだ保険料を差し引き、さらに50万円(特別控除)を引いたものを一時所得と見なします。
そして、これに1/2を掛けた金額が課税対象です。
所得税の課税対象額 |
(死亡保険金-払込保険料総額-50万円)×1/2 |
以上を見ると、課税対象となる部分が最も小さくなるのは相続税だということが分かります。税金を節約するためには相続税となる契約パターンを覚えておくといいでしょう。
生命保険の受取人の変更を考えるべきケース
生命保険を見直す時、受取人を変更する必要性が生じる場合があります。
面倒だから見直さなくていいや、と思うのは大変危険です。
自分に万が一のことがあった時、残したい人に残せるよう、必要なタイミングで見直しましょう。
ケース1:結婚した時
例えば独身時代に加入していた生命保険では、葬儀代などを残すために受取人を両親にしていたとします。
結婚をした際は葬儀代の他にも、配偶者の生活を考えた保障内容にしたほうがいいでしょう。
このようなケースでは、受取人を両親から配偶者に変更する必要性が生じます。
仮に受取人を両親のままにした場合、相続税の配偶者控除といった画期的な控除を受けることができなくなってしまいます。
せっかく残してもらった保険金が少なくなってしまうことがないように、変更し忘れには注意しましょう。
結婚した時には、結婚相手のために保険に加入するのか、子供のために加入するのかによって選ぶべき保険が変わります。
また、保障額を決めるには、パートナーとの生活費や老後の資金について考慮しなければなりません。
ケース2:離婚した時
結婚時には保険金の受取人を配偶者にしているパターンがほとんどでしょう。
離婚時には、保険料や保障内容の見直しとともに受取人の変更を必ずしてください。
元配偶者のままになっていた場合、残すべきところに残らないことになってしまいます。
また離婚に伴い住所や名字、クレジットカードの名義変更など、変更したものがある場合はそちらの確認も忘れずに行いましょう。
ケース3:死別した時
例えば、被保険者を夫、保険金受取人を配偶者にしていて、配偶者が亡くなったとしましょう。
受取人の変更手続きをしないまま被保険者が亡くなると、受取人の相続人が受け取ることになります。
この場合、保険金を受け取るのに戸籍謄本や法定相続人全員の印鑑証明書などを提出することになり、手続きが煩雑です。
残された人がスムーズに手続きできるよう、保険金受取人が亡くなった場合は、早めに変更手続きをしてください。
相続対策として生命保険を活用する
上の項目では生命保険の保険金受取人について学んできました。
生命保険は、実は相続対策としても利用できるのです。
ここからは、相続対策としての生命保険活用方法について解説します。
相続税への対策
生命保険は、相続税対策として利用できます。
例えば、とある家庭(夫、妻、子供1人とします)に、夫の現金預金が5,000万円あったとしましょう。
この時点では、現金預金は夫の固有財産です。
病気や事故などで夫が亡くなった場合、現金預金の5,000万円は相続財産となります。
この財産は、遺産分割をする必要があり、全てが課税対象です。
しかし、5,000万円のうちいくらかを保険金として残した場合、非課税枠を利用して差し引かれる税金を抑えることができます。
死亡保険金の非課税限度額は、「500万円 × 法定相続人の数」でしたね。
今回のパターンでは、妻と子供1人が法定相続人なので「500万円 × 2人=1,000万円」は非課税限度額となり、それを超える額に相続税がかかります。
遺産分割への対策も可能
被相続人が残した財産は、相続財産となり遺産分割の対象となります。
遺産分割とは亡くなった方(被相続人)の遺産を配偶者や子など(相続人)で分けること。
遺産分割の手続きは面倒なことが多く、場合によっては円滑に協議が進まないこともあります。
しかし、死亡保険金は受取人指定の財産となるので、他の相続人の同意がなくても受け取れます。
残したい人に確実にお金を残せる上に、すぐに受け取れることから、遺産分割をスムーズに行えるのです。
まとめ
今回は生命保険の保険金受取人に焦点をあてて、税金や変更の必要性が生じるシーン、相続対策についてご紹介しました。押さえておきたいポイントは以下の通りです。
生命保険における税金について
- ・生命保険の死亡保険金には税金がかかる
- ・かかる税金の種類と保険の契約形態
- ・相続税には保険金の非課税枠がある
受取人変更の必要性が生じるシーン
- ・変更の必要性が生じるのは主に結婚時・離婚時・死別時
- ・変更忘れに注意
相続対策として
- ・死亡保険金は「相続財産」ではなく受取人の「固有財産」
- ・保険金として残すことで遺産分割を円滑に行える
生命保険について考えるシーンは人生の節目でもあり、精神的にも大変な部分があるかもしれません。
しかし、その分しっかりと考えておきたいもの。
死亡保険金の受取人を切り口にしただけでもたくさんのポイントが出てきました。
ぜひこの機会に、受取人を誰にするか考えてみてください。
※2022年10月時点の情報です
監修:ファイナンシャルプランニング技能士 垣内結以