事業承継に生命保険で備える方法とは?メリット・デメリットを解説

多くの中小企業にとって悩ましい問題の一つに「事業承継」が挙げられます。事業承継に生命保険が活用できると聞いたことのある経営者の方も多いのではないでしょうか。

今回は、事業承継に生命保険で備える方法について解説します。生命保険を活用するメリット・デメリットをはじめ、事業承継に活用できる生命保険の種類についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

法人の事業承継の仕組み

はじめに、法人の事業承継の仕組みについて整理しておきましょう。事業承継に伴い発生する費用や、生命保険をどのように活用するのかを押さえておくことが大切です。

保有株式を後継者に引き継ぐ

事業承継にあたって、代表者が保有している株式を後継者に引き継いでおく必要があります。保有株式の全部または大部分を後継者に集中させておくことで議決権が分散するのを防ぎ、株主総会で議案が円滑に決議できる状態にしておくことが大切です。

持株比率が1/2を超えると、普通決議を単独で可決できます。普通決議とは、役員の選解任や役員報酬・退職気労金の決定、配当決議などに関する決議です。さらに、持株比率が2/3以上になると特別決議を単独で可決できてしまいます。特別決議とは、自社株の取得や定款変更、監査役の解任といった経営上とくに重要な事項に関する決議です。事業承継にあたって、これらの議決権を後継者が掌握しておくことは非常に重要なポイントといえます。

事業承継に伴い発生する費用

後継者が株式を引き継ぐ場合、主に二つの方法があります。

一つは株式譲渡です。この場合、後継者は株式を取得するための対価を支払う必要があります。したがって、後継者は譲渡される時点での株式評価額に応じた資金を用意しなければなりません。

もう一つは、相続や贈与によって株式を承継する方法です。この場合、株式評価額に応じて相続税・贈与税が課税されます。後継者は支払うべき相続税または贈与税の金額を用意しておかなければなりません。

このように、事業承継に伴い株式を引き継ぐ際には、譲渡・相続・贈与のいずれのケースでも費用が発生します。後継者はこれらの費用をあらかじめ準備しておく必要があるのです。

生命保険で事業承継に備える方法

後継者が株式を取得する際に必要な資金を、生命保険で準備できます。保険金受取人を後継者または法人に指定しておくことで、後継者に資金を受け渡せるからです。

事業承継で起こりがちなトラブルとして、後継者以外に相続人がいるケースが挙げられます。後継者以外の相続人が自社株を一定以上保有していると、承継後の経営に関与できる可能性があるからです。生命保険であれば保険金受取人をあらかじめ指名できるため、自社の経営権を引き継がせたい人物へ確実に承継することができます。また、自社株の取得に必要な資金を確保できるので、後継者自身が資金を用意できないリスクも回避できるのです。

事業承継に生命保険で備えるメリット

事業承継に生命保険で備えることによって、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。主な三つのメリットについて解説します。

株式を買い取る資金を準備できる

後継者が自社株を買い取るにあたり、多額の資金が必要になるケースは少なくありません。株式の評価額によっては、後継者の個人資産では支払えない可能性もあるのです。そもそも後継者に株式を買い取るだけの支払い能力がなければ、事業承継が暗礁に乗り上げてしまいます。

生命保険の保険金受取人を後継者や法人にしておくことで、保険金を活用した資金の確保が可能となります。保険金の受取人は法定相続人の優先順位に関わらず有効となるため、後継者へ確実に株式を引き継げる点が大きなメリットです。

納税資金を準備できる

相続や贈与によって株式を引き継ぐケースにおいても、生命保険の保険金や解約返戻金を納税資金に充てられます。相続税や贈与税は株式評価額に応じて決定されるため、事業を引き継ぐ時期によっては多額の納税が必要になるケースも少なくありません。納税によって後継者に経済的な負担を強いるのを防げることは、生命保険を事業承継に活用するメリットの一つといえます。

後述する通り、生命保険の種類によっては解約返戻金の返戻率のピークが10年程度といった早い時期に到来する商品もあります。こうした生命保険を事業承継に活用することによって、近い将来に後継者への引き継ぎを予定している法人も計画的に納税資金を準備できるのです。

株式の評価額を抑えることができる

法人が生命保険の契約者であれば、保険料の全額または一部を損金に算入できます。会社の利益を圧縮できる分、株式の評価額を抑える効果もあるのです。事業承継に活用することを目的として生命保険に加入する場合、保険金は相応の金額で契約するでしょう。保険料も高額になるケースが大半のため、利益を圧縮する効果は決して小さくありません。

株式の評価額を抑えられれば、実際に事業承継する際に必要な資金も節減できます。事業承継に必要な資金を準備しつつ、資金を抑えられる点は生命保険特有のメリットといえるでしょう。

事業承継に生命保険で備えるデメリット

事業承継に生命保険で備えることで多くのメリットを得られる反面、デメリットとなりかねない面もあります。具体的には、次の2点を理解した上で生命保険を活用することが大切です。

保険料の支払いが負担になる場合がある

加入する保険によっては、保険料が高額になる可能性があります。保険料の支払いがキャッシュフローを圧迫し、財務状態を悪化させる原因にもなりかねません。

生命保険を事業承継に活用するのであれば、将来的に必要になると予想される資金と保険金・保険料のバランスを考慮した上で加入内容を決定することが大切です。当面のキャッシュフローだけでなく、今後の事業計画も加味して中長期的な視点で捉える必要があります。

解約する時期によっては解約返戻金が少なくなる

生命保険の解約返戻金は、加入期間が長くなるにつれて高くなっていきます。短期間で保険を解約した場合、解約返戻金が少額になってしまう可能性があるのです。事業承継の時期が想定外に早く到来した場合などは、損失が発生するリスクも抱えていることを想定しておく必要があります。

生命保険を契約する際には、解約返戻金のピークが到来する時期がいつになるのかを十分に確認した上で、事業承継の時期と重なる確率が高いかどうかを慎重に見極めることが大切です。

事業承継に活用できる生命保険

事業承継に活用できる主な生命保険の種類を見ていきます。保険の種類によって保険料や解約返戻率、経理上の扱いが異なりますので、それぞれの特徴を押さえておきましょう。

終身保険

保険料の払込期間を過ぎても、解約しない限り一生涯保障が続くタイプの保険です。経営者が死亡した場合に保険金が支払われるだけでなく、加入期間に応じて解約返戻金も支払われます。貯蓄性が高いことから、後述する定期保険よりも保険料が高くなるのが一般的です。

注意点として、終身保険の保険料は損金算入できません。支払った保険料は全額資産計上されますので、利益を圧縮する効果は見込めない点を理解しておきましょう。保険金や解約返戻金の受取時には、払込保険料の総額よりも受け取る金額が大きければ差額分が雑収入となり、受け取る金額のほうが少なければ雑損失となります。

長期平準定期保険

定期保険の一種ですが、掛け捨てではなく解約返戻金のあるタイプの保険です。解約返戻金のピークが20〜30年程度と比較的長期に到来するため、保険料を抑えつつ終身保険に近いメリットを得られます。

保険料は損金算入できますが、全額損金となるのは最も高い解約返戻率が50%以下の商品に限られます(※)。利益を圧縮することで株式評価額を抑える効果があるものの、全額損金に算入できるケースばかりではない点に注意しましょう。

※2019年7月8日以降に契約した場合

無解約返戻金型定期保険

保険の始期から満了までの期間に被保険者が死亡または高度障害状態になった場合に保険金が支払われるタイプの商品です。満期保険金・解約返戻金がない分、終身保険や長期平準定期保険よりも保険料が割安になっています。現経営者が死去した場合に、後継者へ経営権を委譲することを想定している企業に適した保険といえます。

保険料は全額損金算入できるため、株式の評価額を抑えられるのが特徴です。保険金が支払われた場合には、雑収入として益金算入します。

逓増定期保険

加入時から保険金が段階的に増えていくタイプの定期保険です。解約返戻金のピークを10年前後に設定できる商品もあるため、事業承継の時期が比較的早く訪れる可能性がある企業に適しています。現経営者が引退する時期が明確になっているようであれば、活用する意義のある保険といえるでしょう。

ただし、他の保険と比べて保険料が高い点に注意が必要です。キャッシュフローを圧迫することがないよう、保険金と保険料のバランスを慎重に判断する必要があります。また、解約返戻率によっては損金に算入できる割合が厳しく制限されるため、株式の評価額を下げる効果に関しては限定的です。

生命保険を事業承継に活用する際の注意点

生命保険を事業承継に活用する場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。生命保険を活用するメリットを十分に引き出すと同時に、トラブルを未然に防ぐ意味でも次の注意点を押さえておくことが大切です。

キャッシュフローの予測をしておく

生命保険を契約するにあたって将来のキャッシュフローを十分に予測しておく必要があります。生命保険がキャッシュフローを圧迫するリスク要因となるのは、主に次の2点です。

1点目は保険料の支払いです。契約する保険の種類や保険金額によっては、年間の保険料が相当な額にのぼることも想定されます。直近の業績だけでなく将来の事業計画も含めて考慮し、保険料が大きな負担にならないか慎重に検討しましょう。

2点目は解約返戻金が少なかった場合の損失リスクです。想定よりも早い時期に生命保険を解約することになった場合、払込保険料の総額に対して解約返戻金が大きくショートすることもあり得ます。契約する保険の種類によって時期ごとの解約返戻金額が異なるため、契約内容を十分に確認しておくことが大切です。

事業承継の時期を決めておく

生命保険の解約返戻金を事業承継の資金に充てる場合、解約返戻金のピークと事業承継の時期が重なるのがベストです。死亡保険金に近い金額を受け取ることができ、生命保険のメリットを最大限に活かせます。

解約返戻金がピークの時期に生命保険を活用するには、あらかじめ事業承継の時期を決めておくことが重要です。事業承継までの期間によって加入するべき保険の種類が見極めやすくなるだけでなく、解約返戻金のシミュレーションもしやすくなるでしょう。現在の経営者が引退する時期を明確にしておくことは、事業承継をスムーズに進める上で非常に大切なポイントといえます。

保険料・保険金の経理処理を確認しておく

保険料や保険金の経理処理についても事前に確認しておきましょう。保険金や解約返戻金を受け取った場合は、払込保険料よりも多ければ雑収入、少なければ雑損失として計上します。保険料に関しては、保険種類によって損金算入できるものとできないものがあるため注意が必要です。

保険料の扱い 保険種類の例
全額損金算入できる ・最高解約返戻率が50%以下の定期保険

・無解約返戻金型定期保険

一部を損金算入できる ・最高返戻率が50%超〜70%以下の定期保険

→保険料の60%を損金算入できる

・最高返戻率が70%超〜85%以下の定期保険

→保険料の60%を損金算入できる

・最高返戻率が85%超の定期保険

① 契約日から10年目まで

100%−(最高解約返戻率×0.9)を損金算入できる

② 契約日から10年経過後

100%−(最高解約返戻率×0.7)を損金算入できる

損金算入できない

(=資産として計上)

・終身保険

まとめ

事業承継に生命保険を活用することで、株式取得の費用や贈与税・相続税の支払いに必要な資金を計画的に用意できます。一方で、保険料の支払いがキャッシュフローを圧迫したり、解約する時期によっては損失リスクを抱えたりすることも考えられるため、契約する保険の種類や保険期間は慎重に検討することが大切です。

今回解説してきたポイントを参考に、ぜひ事業承継に向けて生命保険を効果的に活用してください。計画的に準備を進めることで、スムーズな事業承継が実現できるはずです。

参考サイト

・生命保険を活用した事業承継対策とは?種類や注意点をまとめて解説!
https://rbsp.jp/media/article/3938/

・自社株承継を保険で準備するために
https://www.nnlife.co.jp/onlinesupport/treasury_stock

・事業承継対策で生命保険を活用すべき3つの理由!
https://www.nissay-biz-site.com/article/chmx-fw32

※2022年9月時点の情報です