公的医療保険制度の全知識|公的医療保険の保障内容と使い道
2023年7月26日
公的医療保険制度(こうてきいりょうほけんせいど)とは、医療保険、年金保険、労災保険、雇用保険、介護保険などの社会保険制度の1つで、病気やケガをして治療を受けた際に保障してくれる保険の制度です。日本においてはすべての国民が公的医療保険に加入するため、国民皆保険制度と呼ばれます。
日本の公的医療保険制度は世界でも高い評価を受けており、世界保健機関(WHO)が2000年にコスト、アクセス、クオリティの3点から評価した健康達成度調査において日本は世界第1位に輝きました。
今回は、公的医療保険制度の概要と賢く利用するための知識をご紹介していきます。
公的医療保険の基本的な内容とその仕組み
まずは公的医療保険とはどういったものなのか、基本的な仕組みや内容を解説します。
日本の公的医療保険制度は世界トップレベル
冒頭でも少しお話ししましたが、日本の公的医療保険制度は世界保健機関(WHO)による健康達成度調査において世界第1位に輝く実績を持ち、その充実度は経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中でトップレベルと言われています。
各国の公的医療保険の概要
世界の公的医療保険制度を比べてみると、下記の3つに大別されます。
国営医療モデル | 税金を財源とした医療サービス。提供者は公的機関が中心。 イギリス、カナダ、スウェーデンなど |
社会保険モデル | 社会保険を財源とした医療サービス。提供者には公的機関と民間機関が混在。 日本、ドイツ、フランス、オランダなど |
市場モデル | 民間保険を財源とした医療サービス。民間機関が中心に提供。 例)アメリカ など |
国民皆保険制度
日本は国民皆保険制度が適応されています。生まれたときから全員が何らかの公的医療保険制度に加入するため、こう呼ばれているのです。例えば、会社員(サラリーマン)の親の元に生まれた人は勤務先の健康保険等の被扶養者となり、親が自営業者であれば国民健康保険の被保険者となります。
公的医療保険を簡単に表にまとめると、以下のような区分になります。
制度 | 対象者 | 保険者 | |
職域 | 組合管掌健康保険 | 大企業の従業員とその被扶養者 | 健康組合保険 |
全国健康保険協会管掌健康保険 | 中小企業の従業員とその被扶養者 | 全国健康保険協会 | |
共済組合 | 公務員等とその被扶養者 | 各種共済組合 | |
船員保険 | 船舶の船員 | 社会保険庁 平成22年からは全国健康保険協会が運営 |
|
地域 | 国民健康保険 | 75歳未満の職域保険に属さない人 | 市区町村 |
後期高齢者医療制度 | 75歳以上。65歳~74歳で一定の障害の状態にある人 | 後期高齢者医療広域連合 |
70歳未満の医療費の自己負担割合は3割
医療機関の窓口では、年齢や所得に応じて医療費の一部を自己負担することになっていますが、70歳未満の方は3割負担です。では「100万円かかった場合は30万円の支払いが発生するのか」と言う方がいますが、1ヶ月に支払う自己負担額には所得や年齢に応じた上限が設けられているため、限度額を超えた分については還付を受けられます。
これは高額療養費制度というものです。
保険料の決まり方
職域保険の保険料は被保険者の所得に応じて決まりますが、被扶養者がいる人でもいない人でも、被扶養者が何人いても保険料負担は変わりません。具体的には、被保険者の標準報酬月額と標準賞与額に保険料率をかけた金額となります。
この標準報酬月額とは、被保険者が事業主から受け取る報酬の月額を、第1級(5万8,000円)から第50級(139万円)までの全50等級に区分したもので、標準賞与額とは、賞与総額から1,000円未満を切り捨てた額です。
全国どこでも治療が受けられる
公的医療保険制度の最大の特徴は、全国どこの医療機関でも必要な治療が受けられ、治療費はすべて公定価格になるという点です。また、医療機関は全国に整備されており、病気やケガの際に簡単に医療サービスを受けられるのは、世界的に見ても発達している日本の医療制度の特徴と言えます。
公的医療保険の主な給付内容
次に、公的医療保険制度の主な給付内容についてご紹介していきます。
出産時の出産育児一時金と出産手当金
子供が生まれた際には出産育児一時金と出産手当金を受け取れます。
子供が生まれた際の出産育児一時金
出産育児一時金として現在は42万円が受け取れます(2023年度からは50万円に増額)。
産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は、40万8,000円(2021年12月31日以前は40万4,000円)です。
直接支払制度を利用すると、医療機関に直接支払われるので、多額のお金を事前に準備する必要がなくなります。
子供が生まれた際の出産手当金
勤務先の健康保険に加入している本人が出産したときは、出産手当金の支給対象となります。出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に受け取れる給付金です。
支給される期間は、出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産の予定日)以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から、出産の日の翌日以後56日目までで、支給額は標準報酬日額の3分の2に相当する金額になります。
ケガや病気で休んだ場合の傷病手当金
職域保険に加入している方が病気やケガで会社を休み、給与の支払いが受けられなかった際には傷病手当金が支給されます。会社を休んだ日が連続して3日間あり、4日目から1年6ヶ月の間に休んだ日に対して支給される仕組みです。支給額は標準報酬日額の3分の2に相当する金額です。
傷病手当金の受給条件まとめ
1:業務外の事由による病気やケガによる療養であること
2:仕事に就くことができないこと
3:連続3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
4:休業期間に給与の支払いがなかったこと
出産手当金および傷病手当金は、休んでいる間に給与が支払われているときは支給されません。ただし、給与が出産手当金や傷病手当金より少ないときは、その差額が支給されます。
高額療養費制度
医療費の自己負担は1ヶ月(暦月)当たりの上限が決まっているという話はしましたが、70歳未満の方は以下の表のように所得によって負担限度額が異なります。
所得区分 | 自己負担限度額 |
標準報酬月額 83万円以上の方 |
25万2,600円+(総医療費-84万2,000円)×1% |
標準報酬月額 53万~79万円の方 |
16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1% |
標準報酬月額 28万~50万円の方 |
8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1% |
標準報酬月額 26万円以下の方 |
5万7,600円 |
被保険者が 住民税の非課税者等 |
3万5,400円 |
いったん病院の窓口で3割負担費用を支払っても、後日還付手続きをすれば払いすぎた額が戻ってきます。もし、直近12ヶ月間ですでに自己限度額に達した月が3回以上あると、4回目からは自己負担の限度額が下がります。
高額療養費制度を効率的に活用するポイント
「限度額適用認定証」の準備
高額療養費制度は、基本的に後から払い戻しされますので、いったん自己負担になります。その費用が負担に感じる方も多いでしょう。医療費が高額になりそうな場合は、あらかじめ「限度額適用認定証」を利用することで、医療機関での支払いが自己負担限度額までになります。
入院日数の調整
高額療養費制度は、毎月1日から末日までの月毎の医療費が自己負担限度額を超えた場合に利用できます。例えば、1月15日から2月5日までに入院し、2月分の医療費は自己負担限度額を超えずに高額療養費制度が使えなかったとします。
入院日数を調整し、例えば1月10日から1月末日までにすれば、高額療養費制度を効果的に利用できます。入院日数の調整は安易にできることではありませんが、覚えておいて損はない知識です。
世帯合算
別々の医療機関を利用した場合や、世帯内で他の人が医療機関を利用した場合は合算できます。合算した自己負担額が限度額を超えれば、高額療養費制度を利用しましょう。
申請期限は2年間
高額療養費制度の申請期間は2年間となっています。早いに越したことはありませんが、入退院でバタバタしていて申請を忘れていた方も、ある程度落ち着いてからの申請が可能です。
死亡時の埋葬費用
もし家族が亡くなった際は、葬祭費として協会けんぽの場合は5万円、国民健康保険の場合は3万円から7万円が支払われます。(自治体によって異なる)
海外でケガや病気になった際の海外療養費制度
健康保険は、実は海外でも給付を受けることができます。一般的に海外で保険は適用されないと勘違いされている方が多いですが、日本の健康保険には「海外療養費制度」があるので、後日請求すれば払戻しを受けることができます。
海外療養費制度の適応範囲
給付の対象となるのは、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られます。美容整形やインプラントなど、日本国内で保険適用となっていない医療行為を受けた場合は、支給対象となりません。
海外療養費制度の支給金額
国内医療機関で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)を基準にして、自己負担相当額を差し引いた額が支給されます。
参照:「全国健康保険協会|海外で急な病気にかかって治療を受けたとき」
子供に対する医療費助成制度
子供の医療費に関しては、各区市町村が子育て支援のため助成制度を設けており、公的保障が充実しています。
- ・子ども医療費助成制度
- ・乳幼児医療費助成制度
- ・義務教育就学時医療費助成制度
自治体によって内容は異なりますが、国の医療制度では子供の医療費負担は小学校就学前であれば2割、小学校就学からは3割の負担となっています。
交通事故でも医療保険が使える
交通事故に遭った際、健康保険は使えないと認識している方がいますが、これは間違いです。交通事故によって負ったケガの治療でも健康保険が使えます。
ただし、第三者によってケガを負わされた場合は「第三者の行為による被害届」を出します。
第三者によってケガをしたときの治療費は、原則、加害者が負担します。
被害届を出すことで健康保険組合側がいったん医療費を立て替え、後日、加害者に費用を請求する仕組みです。
公費負担医療制度とは|国や自治体が費用を負担
国や地方自治体が医療費の全額、あるいは一部を公費で負担する制度も覚えておきましょう。
自立支援医療(更正医療)
身体障害者が、障害を除去・軽減するための手術などを行った場合に医療費が支給される制度です。
対象となる手術の例
角膜手術や関節形成手術、外耳形成手術、心臓手術、人工透析療法、腎臓移植術など
自立支援医療(育成医療)
障害児や、医療を行わなければ将来障害を残すと認められた児童に対する医療制度です。
対象となる障害
肢体不自由や視覚・聴覚・言語機能障害または先天性内臓疾患、肢体不自由 など
特定疾患治療研究事業
特定疾患(とくていしっかん)とは、原因が不明で治療法が確立していない難病のうち、国や自治体が公費負担の対象として指定した疾患のことです。
この特定疾患には国が指定したものと都道府県が独自に指定したものが存在します。
小児慢性特定疾患治療研究事業
18歳未満の子供が指定された小児慢性特定疾患にかかり、所定の医療機関で治療を受けることで医療費の全部または一部が公費で負担される制度です。
対象疾患
小児がんや慢性腎臓疾患、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、膠原病 など
まとめ|民間医療保険の必要性は?
以上が公的医療保険制度の概要になります。ここまで読んできて、公的医療保険があれば民間の医療保険はいらないのかもしれないと思った方も多いでしょう。確かに、公的医療保険制度をフル活用すれば、医療保険の必要はないようにも思えます。
ただ、入院や手術に備えた民間の医療保険は、「公的医療保険だけでは不足する分を補う」ことが可能です。
医療保険に加入するならどの医療保険を選ぶべきなのか、見極めていただければと思います。
※2023年1月時点の情報です
監修:ファイナンシャルプランニング技能士 垣内結以