医療保険制度とは|主な種類と4つの特徴
2023年9月8日
医療保険制度(いりょうほけんせいど)とは、相互扶助の精神のもと、病気やケガで医療機関に受診した際に発生した医療費の一部を保険者が給付する保険のことで、長期入院や高額な医療費が被保険者の負担となることを避けるために設けられている制度です。今回はさらに詳しい特徴を解説していきます。
医療保険は強制加入の『公的医療保険』と、任意で加入する『民間医療保険』の2つがありますが、医療保険制度の概要を説明する際は、『公的医療保険』のことだとお考えいただいて問題ないでしょう。
厚生労働省の『我が国の医療保険について』では、国民皆保険制度の意義は『国民の安全で安心な暮らしを保障すること』としています。
国民皆保険の特徴 | |
1 | 国民の全員を公的医療保険で保障 |
2 | 医療機関を自由に選ぶ(フリーアクセス) |
3 | 安い医療費で高度な医療を提供 |
4 | 社会保険方式を基本とし、公費を投入 |
『医療保険制度=国民健康保険』と思う人が多いですが、厳密に言うと、この認識は正しくありません。
保険業界には、似たような用語が多くて、正直ややこしいですよね。保険について混乱しないためにも、今回は『医療保険制度』に焦点を合わせて情報をお伝えします。
医療保険制度の基本的な仕組み
医療保険は、日本国民のすべての人が加入し、みんながお金を出し合って運営している助け合いの仕組みのことです。医療保険にはサラリーマンが加入する被用者保険(職域保険)と、自営業者などが加入する国民健康保険(地域保険)、75歳以上の方が加入する『後期高齢者医療制度』に大別され、必ずどこかの医療保険に加入しています(国民皆保険)。
健康保険 (職域保険、被用者保険) |
サラリーマンなど |
国民健康保険 (地域保険) |
自営業者や学生など |
共済組合(職域保険、被用者保険) | 公務員、教職員 |
船員保険(職域保険、被用者保険) | 船員 |
後期高齢者医療制度 | 75歳以上の方 |
必ずどれかの保険に加入するため、上記を含めて国民皆保険と呼んでいます。 |
会社員が加入する健康保険には、大企業の従業員とその家族が加入する組合管掌健康保険(健保組合)、中小企業の従業員とその家族が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)があります。
医療保険には2つの種類がある
医療保険1:被用者保険
医療保険制度における被用者保険とは、企業や国、地方自治体などに雇われた従業員とその家族が対象です。共済組合、船員保険も含まれます。
被用者保険のメリット
- ・保険料の半分を負担してもらえる
- ・扶養制度がある
- ・傷病手当金を受け取れる など
被用者保険のデメリット
全国民への適用が困難であり、給付金に格差が生じるなど、最低限度の保障に欠ける面があります。
医療保険2:国民健康保険
地域保険という呼び方もしますが、個人事業主、学生、専業主婦、無職者などが加入する保険のことです。簡単に言ってしまうと、被用者保険に加入していない方が対象になる保険のことですね。
医療保険制度における各保険者の比率
下記の表は、各保険の加入者の情報を一覧にまとめたものです。
市町村国保 | 協会けんぽ | 組合健保 | 共済組合 | 後期高齢者医療制度 | |
保険者数(平成25年3月末) | 1,717 | 1 | 1,431 | 85 | 47 |
加入者数(平成25年3月末) | 3,466万人 | 3,510万人 | 2,935万人 | 900万人 | 1,517万人 |
加入者の平均年齢(平成24年度) | 50.4歳 | 36.4歳 | 34.3歳 | 33.3歳 | 82歳 |
65歳〜74歳の割合(平成24年度) | 32.50% | 5% | 2.60% | 1.40% | 2.60% |
加入者一人当たりの医療費(平成24年度) | 31.6万円 | 16.1万円 | 14.4万円 | 14.8万円 | 91.9万円 |
加入者一人当たりの平均所得(平成24年度) | 83万円 | 137万円 | 200万円 | 230万円 | 80万円 |
加入者一人当たりの平均保険料(平成24年度) | 8.3万円 | 10.5万円 | 10.6万円 | 12.6万円 | 6.7万円 |
保険料負担率 | 9.90% | 7.60% | 5.30% | 5.50% | 8.40% |
健康保険と国民健康保険との給付内容の違い
健康保険と国民健康保険は、高額療養費制度や出産一時金は同一なものの、健康保険には病気やケガで働けない期間、出産前後に働けない期間の保障が付帯されているのが大きな違いと言って良いでしょう。
日本の公的医療保険制度(国民皆保険制度)の特徴
次に、公的医療保険制度の特徴的な内容をご紹介していきます。
特徴1:強制加入の国民皆保険
国民はいずれかの保険には必ず加入する権利と義務を持っています。『健康だから医療保険に加入しない』ということはできず、強制加入という点は大きな特徴です。
特徴2:フリーアクセス
医療機関は全国にあり、どこでも高度な医療を受けられます。どの病院でも同じ価格で治療を受けられ、自己負担割合も同じです。
特徴3:現物給付と現金給付
診察や検査、療養に必要な現物 (薬など)そのものを支給することを『現物給付』と言います。一方、出産手当金、傷病手当金のように現金を支給することを『現金給付』と言います。日本の医療保険制度は現物給付と現金給付の両方を備えているのです。
特徴4:医療費負担額は年齢・所得によって変わる
最も特徴的なものは『医療費の負担を抑えられること』でしょう。健康保険証を病院の窓口で出すことで、医療費の負担割合は1~3割となり、1ヶ月の医療費の自己負担が高額にならないよう高額療養費制度もあります。
負担額は以下の通りです。
一般・低所所得 | 現役並み所得 | |
75歳以上 | 1割負担(一定所得以上は2割) | 3割負担 |
75歳以未満
70歳以上 |
2割負担 | |
70歳未満
6歳以上 |
3割負担 | |
6歳未満 | 2割負担 |
高額療養費制度とは
月初から月末にかかった自己負担の医療費が高額になった場合、一定の金額を超えた部分が払い戻しされる制度です。3割負担でも医療費が高額になる可能性がある場合に利用できます。以下は69歳以下の方の自己限度額の上限です。
標準報酬月額 | 自己負担限度額 |
83万円以上 | 25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% |
53万〜79万円 | 16万7,400円+(医療費-55万8,000円)×1% |
28万〜50万円 | 8万100円+(医療費-26万7,000円)×1% |
26万円以下 | 5万7,600円 |
住民税非課税 | 3万5,400円 |
医療保険制度が抱える2つの問題点
医療保険制度は万が一の際にみんなで助け合えるので、これからもあり続けてほしい制度ですね。しかし、医療保険制度には2つの問題点があり、その問題点を解消しないと豊富な保障を受けられなくなってしまう可能性があります。
この章では、医療保険制度が抱える問題点についてお伝えします。
問題点1:医療費の増大
医療保険制度の『支出面』に関する問題点として、『高齢化による医療費増大』と『医療技術高度化による医療費増大』を挙げることができます。
人は年齢を重ねると、ケガや病気になる回数が多くなったり、重い症状となって、充実した医療ケアが必要になるケースが増えたりするでしょう。高齢化社会になることは、こういった医療費用が増えることを意味します。みんなが支払う保険料の総額は変わらないにも関わらず、医療費用だけが増えていきます。
また、医療技術が高度化した場合にも、より高額な医療費用が必要です。日々技術が高まっていく現代において、医療技術高度化による医療費増大も無視できないものでしょう。
問題点2: 保険料収入の減少
医療保険制度の『収入面』に関する問題点として、『経済成長の低迷による労働人口の減少』を挙げることができます。
保険料を支払う人が多ければ多いほど総収入が増え、医療保険制度は安定します。逆を言えば、保険料を支払う人が少なければ少ないほど、医療保険制度は不安定になります。
ひと昔の日本は景気が良く、雇用が安定していたので、十分な保険料を集められました。
しかし、現代は景気が低迷し、非正規雇用者が増え、労働者人口も減っています。その結果、医療保険の収入が不安定になってしまいました。
民間の医療保険の仕組みと特徴
公的医療保険制度について解説してきましたが、民間の医療保険についても基本的な知識をご紹介していきます。
民間医療保険と公的医療制度の違い
民間の医療保険を理解する上で、公的医療保険制度との違いについて理解することが必要です。
民間医療保険は一言で表すと、民間の保険会社が提供する医療保険サービスです。加入は任意で、自身が加入したいタイプの保険に加入できますが、健康状態の審査や告知が必要です。
対して、公的医療保険は行政の管轄で実施されている保険のため全国民が加入しなければなりません。両者の違いを簡単にまとめると以下の通りです。
公的医療保険 | 民間医療保険 | |
加入義務 | 〇 | × |
加入審査 | × | 〇 |
保険料 | 年齢・加入先・所得によって変動 | 年齢・保障内容によって変動 |
医療費の保障方法 | 窓口にて医療費の軽減 | 申請 |
受け取れる給付金の基本的な種類
民間の医療保険で受け取れる主な給付金には、入院給付金と手術給付金があります。
入院給付金
入院したときに受け取ることのできる給付金です。入院のすべてが対象ということではなく、治療を目的としている必要があります。そのため、正常分娩で妊婦が入院した場合などは入院給付金はもらえません。
手術給付金
病院などの医療機関で手術をした際に受け取れる給付金です。
こちらもすべての手術が対象になるわけではなく、病気やケガの治療目的で行われたものが対象です。保険会社によって基準が設けられています。
民間医療保険の2つのタイプ
大きく分けると『終身型』と『定期型』の2つの分けることができます。
終身型
終身型の終身医療保険(しゅうしんいりょうほけん)とは、一生涯にわたって医療保障を受けられる保険です。
加入時の保険料はやや高めですが、加入後は保険料が上がりません。払込期間は加入時に設定でき、定年までに払い終えるよう設定すれば、老後の病気やケガに備えられます。
終身医療保険に興味を持った場合、まず気になるのはメリットとデメリットでしょう。結論から端的にお伝えします。
終身医療保険のメリット
- 一生涯の医療保障が得られる
- 保険料が途中で上がらない
- 払込期間を自分で設定できる
- 早期に払い終えると、その後は保険料負担なしで保障が続く
終身医療保険のデメリット
- 定期医療保険と比べると保険料が割高
- 貯蓄性のある保険は数が少ない
- 保険の見直しがしにくい
終身医療保険を利用すべき人
- 早いうちに一生涯の医療保障を手に入れたい
- 保険料が上がる保険は嫌
- 割高の保険料がそこまで負担にならない
定期型
定期型の定期医療保険(ていきいりょうほけん)とは、保障期間を決めて契約する『掛け捨て型保険』のことです。保険料を支払っている間だけ保障を受けられます。
終身医療保険と同様に、定期医療保険も加入時の年齢に応じて保険料が決まりますが、終身型と比べて低額です。しかしながら、更新時に保険料が増額されるため、長期間の加入に関しては、総額で支払う保険料は終身型のほうが安くなります。
終身型と定期型のどちらに加入するべきか
定期型と比べて終身型は保険料は高額なので、収入が不安定な人は定期型に加入したほうが良いでしょう。医療保険は、万が一のときのために家計を助けるためのものですが、高額な保険料によって家計を圧迫してしまったら本末転倒です。
定期型は更新時に保険内容の見直しがしやすく、ライフステージの変化に応じて保険を見直したい方にも向いています。
健康保険との違いは審査や告知があること
健康保険が強制保険で誰でも加入できる保険制度なのに対して、民間の医療保険は健康な人でなければ加入しづらくなっています。
健康な人と持病のある人とでは保険を使う可能性が異なるので、同じ条件で加入を引き受けてしまうと不公平になるからです。
すでに病気になっている方の加入は不可能ではありませんが、ハードルが高いことを覚えておきましょう。
公的医療保険制度があれば民間の医療保険は不要?
これだけ公的医療制度がしっかりしていれば、民間の医療保険に加入する必要はないのではないかとも考えられます。その点について、ご紹介します。
そもそも民間の医療保険の存在意義は?
民間の医療保険は、公的医療保険制度ではカバーしきれない医療サービスの支出を補うのに大変有効です。
現役世代の医療費負担は3割で済みますが、病気やケガの程度によっては治療費が高額になったり、入院が長期化したり、自己負担が思いのほか大きくなることもあります。そういった場面に備えて民間の医療保険に加入しておくことで安心できるでしょう。
先進医療は公的医療の対象外になる
高度な医療技術や先進的な治療法を使う場合には、公的医療保険の適応対象外とされる、高額な医療費を自己負担しなければならないこともあります。先進医療は300万円を超えるケースもありますので、民間の医療保険に加入しておくと、こういった突然の出費にも備えることができますね。
民間の医療保険の加入に適した人とそうでない人
では、どのような方が民間の医療保険に加入するべきなのでしょうか。
医療保険に加入すべき人
国民健康保険の加入者
個人事業主、フリーターなど会社員以外の人が加入する国民健康保険。国民健康保険者は会社員が加入する健康保険ほど手厚い保障を受けられません。病気やケガなどで入院する際、その間の収入は減少し、加えて入院費を工面しなければならないため家計が圧迫されます。
民間の医療保険では国民健康保険でカバーできない部分をカバーできるため、国民健康保険の加入者にはおすすめです。
貯金が苦手な人
重度の病気など長期の入院が必要な方は、健康保険が適用されても医療費の支払いが難しくなるかもしれません。病気によっては保険が適用されない先進医療を受ける必要があります。
貯蓄のある人は問題ないかもしれませんが、貯金することが苦手な人は万が一の病気に備えて民間の医療保険に加入すると安心です。
民間の医療保険の加入が必要ない人
反対に、万が一の医療費のために十分なお金を蓄えている人は民間の医療保険に加入する必要はないかもしれません。会社で加入している医療保険の内容が充実している方も同様に、民間の医療保険に加入しなくても、医療費をまかなえる可能性が高いです。
医療保険の選び方は?
民間の医療保険への加入を検討する場合、必ず比較が必要です。その際の比較ポイントとして以下の事項を見ていくと良いでしょう。
- ・1入院の支払限度日数と保障額を比較する
- ・特約で比較する|余分な特約は排除
- ・保険料だけで比較するのはおすすめできない
- ・医療保険の加入率で比較するのは微妙
- ・終身型と定期型で比較
- ・年代別の利便性で比較
まとめ
今後の医療保険制度がどのように変わっていくのかは分かりませんが、公的医療保険のプラスアルファとして、自分に合った民間医療保険に加入しておくことで、万が一の備えになります。ぜひ一度検討してみてください。
※2023年1月時点の情報です
監修:ファイナンシャルプランニング技能士 垣内結以